Vol.60 情熱を伝えていく楽しさ
【プロフィール】
Maskiell Owen マスカル・オーウェン
いつも品質の高い訳文をご納品して頂き、イレギュラーな案件にも柔軟かつ丁寧に対応してくださる日英翻訳者のマスカルさん。そんなマスカルさんに翻訳部ディレクター・松本がインタビューしました。
日本語を勉強するようになったきっかけ
ーーまずマスカルさんのバックグラウンドや翻訳者としての仕事について、日本や日本文化に興味を持ち、日本語を勉強するようになったきっかけについて教えてください。
マスカル:私はオーストラリア出身で、中学生の頃、柔道のクラブに数年間所属したことが、日本文化や日本人との初めての接点でした。先生は日本から来ていて、家族も日本人でした。
マスカル:数年間柔道を習いましたが、知っている日本語は腕立て伏せをする時に、「いち、に、さん」と数える程度でした。2000年頃、オーストラリアでは政府の方針で日本語教育が盛んでした。そのため、中学と高校では日本語のプログラムがあり、全員が受けることになっていました。日本語は難しいので誰もが続けるわけではありませんが、私は中学生の間、日本語の勉強を続け、3年生の時に日本へ3週間行く修学旅行があったんです。3週間の日本旅行は長くお金もかかるので、両親に断られると思っていましたが、返ってきた答えは、「日本語の授業でよい成績をとれたら、行ってもいいよ」でした。私はそれから数カ月間、日本語を一生懸命勉強し、勉強をつづけながららさらに日本への興味がわいてきました。そして日本に行って素晴らしい時間を過ごしたんです。オーストラリアと日本の文化の違いに驚き、日本中を旅して強烈な印象を受けました。
ーー:修学旅行ではどこに行かれたのですか?
マスカル:いろいろなところに行きました。東京と京都では4、5日間過ごし、仙台では短いホームステイをしました。箱根と広島にも行って、平和記念資料館を訪れたのを覚えています。お寺や自然の景色も見ましたし、各地の街並みも好きでした。東京の高層階にあるホテルに泊まった時は、街全体の風景に息を呑みました。旅行中は覚えた日本語を使う機会も少しありました。何度かの学校訪問や短いホームステイ、学校でのスピーチなど、日本の学生とコミュニケーションをとるのはすごく楽しかったです。そのおかげで、日本語にさらに興味を持つようになり、高校でも日本語を勉強し続けました。
その後、シドニー大学で日本語を専攻しました。カリキュラムはとても優れていて、漢字などもたくさん覚えました。ただ、大学の課程を終えても、まだ翻訳が簡単にできるようなビジネスレベルには達してなくて、もっと流暢に、読んだり話したりするにはまだまだ勉強が必要だと感じました。
日本語の勉強
ーー:日本語の勉強は英語の勉強に比べ、リソースや教材が限られている分、大変ですよね。オーストラリアにお住まいの英語ネイティブスピーカーとして、どのように日本語を勉強されたのでしょうか?
マスカル:学校ではカリキュラムがあり、ひらがなやカタカナに加えて、漢字も少し学び、授業では自己紹介のようなスピーキングの練習もしました。
ーー:日本語のネイティブの先生はいらっしゃいましたか?
マスカル:高校にはいませんでしたが、シドニー大学の日本語学科には日本人の主任教授と、日本人とオーストラリア人の教授がいました。シドニーはオーストラリアの中でも大きな都市の一つなので、日本とのつながりは強いと思います。もちろん資料は少なく、インターネットで検索しても学習する場所や方法がたくさんあるわけではありませんが、情熱があれば、続けることはできると思います。
修学旅行の後も、日本へ何度か行きました。しばらく時間があきましたが、日本が本当に好きだったので、25、27、28歳の時にまた日本へ行ったんです。屋久島に行き、伝統的な場所や多くの自然を目にし、それが強い興味を持ち続けることにつながりました。
ーー:旅行を通じて、日本語を勉強しようという気持ちがさらに強まったのでしょうか?
マスカル:その通りです。大学卒業後、私は空港で仕事をしていて、たまに日本人のお客さんのお手伝いをすることもあったのですが、日本語を仕事として常に使うような環境ではなかったので、その間は日本に行くことでつながりを持ち続けました。
ーー:日本語を勉強する上で、効果的だった方法は何ですか?
マスカル:日本語に興味があれば、最近はアニメでも日本のニュースでも、スマートフォンで好きな教材を見つけられます。オーストラリアにいても、インターネットを通じて日常的に日本語の教材にアクセスすることができるんです。大切なのは、どうやってモチベーションを維持し続けるかです。
日本語に情熱を持ちつづけること
ーー:日本語を学びたいという情熱は、どこから来るのでしょうか?
マスカル:日本の文化がとても好きだということでしょう。あまりにも好きなので、翻訳者になるしかなかったのかもしれません。私は以前から、日本の自然や、伝統的でほとんど古風ともいえるお寺や山など日本文化のさまざまな部分が混在しているところが好きでハイキングも少ししたことがあります。俳句も好きで、俳句バトルもあるテレビ番組『プレバト』を妻と見ています。オーストラリアにいる頃から見ていたんですよ。日本文学も少し読みました。難しかったですが、夏目漱石と太宰治が好きです。アニメを見たり、ゲームをしたりすることも少しはあります。それから日本の食べ物も大好きです。そして一番情熱を感じるのは、やはり言葉、日本語です。勉強すればするほど、理解すればするほど、日本語が流暢になって楽しくなってきます。そして、楽しければ楽しいほど、もっと続けたくなるんです。勉強をすればするほど興味が湧いてきます。
ーー:私も同じで、英語とその文化が大好きです。英語がある程度できるようになってから、英語でしか表現できない気持ちや考え、発想があることに気づきました。日本語で好きな表現はありますか?
マスカル:例えば「それでいいよ、やってみようよ」という意味の、「いいじゃん」「別にいいじゃん」というような日本語のカジュアルな表現が好きです。また、日本を旅行中に屋久島でハイキングに行くことにしたんです。その時頂上で見た雲海がとてもきれいで「雲海」という言葉も壮大な感じで好きです。
ーー:日本語の勉強で一番楽だったこと、一番大変だったことは?
マスカル:一番簡単だったことの一つは、実は漢字です。新聞を問題なく読めるようになることが目標だったので、一時期漢字を猛勉強したら、ある時からピンと来るようになりました。書くのはまだまだですが、翻訳の言葉選びに比べたら漢字の方が答えは一つしかないので簡単かもしれません。
翻訳者として仕事をしていて難しいと感じるのは、日本語の長い文章にピッタリくる表現を見つけ出すことです。読んで理解することはできても、それを英語に置き換えて明確に表すのは大変です。たくさんのフレーズや句を理解し、それを組み合わせて、読者のためにわかりやすい英語にする必要があります。これはかなり難しいですが、きちんと表現できた時は、その分達成感や、やりがいを感じます。
また、日本語は英語に比べて主語をあまり使わないので、文脈を把握しながら、その文の主語が何かを理解するのが課題です。英語では常に「I」「we」「the company」といった主語を使って表現しますが、そうでない日本語の主語を見分けるのは、難しいこともあります。主語までの糸をたどれることが、翻訳者に必要なスキルの一つになります。そのためには、日本語の細部まで理解できなければいけません。読めても意味をよく理解していないと、誰が何をしているのかがわからなくなることがあります。
ーー:日本語は漠然としていて、内容をはっきりさせるために絞り込んでいく必要があるとお考えでしょうか?
マスカル:日本語を読んでいて、大まかな意味を理解し、読んでいるものにのめり込むことはできますが、英語に訳すとなると、「うーん、何から始めればいいんだろう」という感じになってしまうことがあります。日本語では単数形と複数形があまり区別されないので、そういうちょっとしたことも常に把握するようにしなければなりません。「1社との提携なのか、2社との提携なのか?」「仕事をしているのは一人なのか、それとも数人なのか?」とかですね。
また、日本語には『など』という表現もあります。日本語の文章で読むととても自然ですが、それを英語で「et cetera」とすると不自然なだけなんです。英語では、3つのものがあれば、3つすべてを挙げるので、文末にいきなり「et cetera」とか「and other things」と書くことはあまりしません。先ほど「日本語はやや漠然としている」とおっしゃったこととつながりますね。
ーー:日本語で『など』と書いた人は、「この文章には7つか8つの事柄が含まれているけれど、全部入れると多すぎるし、3つ挙げて残りを外すと人によっては不快に思うかもしれない」という風に考えているのかもしれません。
マスカル:なるほど。『など』は実は気配りの一種なのかもしれないですね。
ーー:それぞれの文化に特有のものがあるため、私たちは常にこのような違いを抱えていて、100%正確に翻訳することは難しいです。
マスカル:折り合いをつけて、伝えるためにできる限りのことをするだけですね。日本語でいうと「行間を読む」でしょうか。でも、欧米人は単刀直入すぎるのか、あまりそういうことをしないように思います。
ーー:どちらの文化にも、よいところとそうでないところがあります。両方の側面を理解できるので、私はいつも有利な立場にいると感じていて、両方の文化からよい面を取り入れるようにしています。だから、いつも「得している気分」です。
マスカル:両方の文化を知っているというのは、すごくいいことですよね。最近日本に引っ越してきて、この国で生活することで文化を理解できるのもすごいことだと感じます。そして、両方がわかることで、先ほど言われたように本当に「得している」と思います。別の国に行っても、全然言葉がわからなければ、その国の文化や人々を十分に理解することはできませんが、言葉が使えれば、まったく新しい可能性が広がるんです。
キャリアについて
ーー:次はマスカルさんのキャリアについてお聞きしたいと思います。フリーランスの翻訳者になる前は、副業で翻訳をされていたそうですね。
大学卒業後、どのようなキャリアを積まれたのですか?
マスカル:大学で最初はメディアを学び、卒業後はテレビ番組やコマーシャルなどの照明の仕事をしていました。元々、カメラの操作などは趣味の一つだったので、照明の仕事をしばらくした後、友人と一緒に半年間インドとネパールに行き、フリーターのような生活をしていましたね。
旅行から帰ってきて、少し照明の仕事をしましたが、その後オーストラリアの航空会社に就職することになりました。そこでは外部オペレーションを担当し、カスタマーサービスにも一部携わって、日本語を使ったり旅行したりする機会もありました。日本と比べると有休も多く、空港で働いていた間に何度か日本に行ってとても気に入ったので、シドニー大学に戻って日本語を専攻することにしたんです。
それからの数年間は、空港で働きながら大学で日本語を勉強しました。しばらくして、自分のスキルをさらに上げる必要があると考え、「日本語能力試験一級」の合格を目指して、一時期猛烈に勉強しました。そして、ニュースを見たり、ニュース記事を読んだり、日本のメディアをより楽しんだりできるようになって、「もしかしたら、翻訳ができるかもしれない」と思い始めたんです。若い頃は、「日本語を流暢に読めるようになるには、一体どうしたらいいんだろう?翻訳なんてまさか」と感じていましたが、少しずつそのレベルにまで進んで、自然に「翻訳をやってみようかな」と思うようになりました。そして、日本の翻訳業界の仕組みをインターネットで調べてメールを送り、第一歩を踏み出すことができたんです。その後、あちこちで少しずつ経験を積み、テンナインに連絡をとって仕事をするようになりました。その頃はまだ空港の仕事をしていて、副業として翻訳をしていました。
そして、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まり、大きな打撃を受けた観光業界の会社は人員削減を図ろうとしていたので、私は退職金をもらって自発的に辞めました。すでに出会っていた妻と、「数年間日本に住んで、いろいろなことをやってみようよ」ということになり、空港を退職して、日本に移住し、完全に翻訳に専念するという大きな変化が一度に起こりました。
ーー:フリーランスの翻訳者になろうとしていて、状況的にも決断せざるをえなかったということですね。
マスカル:「今しかない」みたいな感じで、「そうだ、やってみよう」と思いました。
ーー:マスカルさんにとっては、すべてがスムーズで自然だったようですが、フリーランスだとどれだけ仕事があるかわからないので、怖いとは思いませんでしたか?
マスカル:航空会社のような安定したフルタイムの仕事を辞めることに多少の不安がありましたが、日本語に興味があり翻訳者になりたいと思った時、全力で取り組むしかないと感じ、パンデミックで状況が変わった際にフリーランスとして挑戦することにしました。家庭を持ちながらフリーランスでやっていけるか不安もありますが、好きな仕事を続けていれば、忙しい時期もあれば、ゆったりできる時期もあり、仕事は続いてくると感じています。
また、フリーランスの仕事には柔軟性もあります。自宅で仕事ができるのは当然ですし、さまざまな翻訳をすることができます。同じ会社で同じポジションだと、ずっと似たような仕事ばかりすることになるかもしれません。
ーー:もしパンデミックが起こらず、前職で安定的に働き続けるという選択肢があったとしても、日本でフリーランスになられたでしょうか?
マスカル:どっちみち、日本には移住したかったのでパンデミックによって、すべてが一気に進みました。もしパンデミックによる混乱がなかったらと考えるのは難しいですが、パンデミックが私に機会を与えてくれて、それを活かしたのは間違いないです。
ーー:マスカルさんの一歩踏み出す勇気は、本当にすごいと思います。
マスカル:オーストラリアで、すでに翻訳のキャリアを確立し始めていたような気がします。翻訳を始めたばかりの頃は、どんな経験でも積んでおくに越したことはないと思います。副業で少しできるようになれば、さらに拡大していくための基礎はできているといえます。
翻訳スキルの秘訣
ーー:マスカルさんはいつも素晴らしい翻訳を納品して頂いていて、複雑な案件にもとても柔軟に対応してもらっています。マスカルさんの翻訳スキルの秘訣は何でしょうか?
マスカル:トリプルチェックでしょうか(笑)。最初はちょっと大雑把でもよいので全部翻訳して、次の日にまた戻ってくるみたいな感じです。でも、時と場合にもよります。当日納品の依頼なら、当然そんな時間はないので、仕上げてからまたすべてを見直します。私の場合、2回目は日本語と照らし合わせて見落としがないかを確認し、3回目は自然に聞こえるかどうかを確かめるために、英語の文章だけを読みます。この2つのステップは、結構大事だと思うんです。翻訳した翌日にもう一度目を通すと、頭がリフレッシュしているでしょうから長いプロジェクトや時間がある時は、1日放置するのもいいと思います。プロフェッショナルな仕事をするためには、時間をおくことはとても大切です。案外、1行見逃してしまうようなことがあるんですよ。すべてをクロスチェックしてから、英語だけを読み返すといいですね。
印象に残っている翻訳
ーー:翻訳者として一番思い出深いものは何ですか?
マスカルテンナインとお仕事をするようになった初期の頃に担当した、福島のとある施設に関する仕事は心に訴えかけるものがあり、特別でした。被災された方の経験や、その施設で働いている方の背景や想いなどを翻訳しました。また、最近ではECサイトで販売を開始する老舗小売店の説明文を翻訳しました。その老舗はデジタル・トランスフォーメーション(DX)やオンライン・ショップの開設など、デジタル化を進めようとしていました。伝統的な日本の製品が、インターネットやデジタル技術を使って新しい方向に向かうという面白い組み合わせで、とても楽しかったです。ほとんどインタビューみたいな感じで、その人たちが話していることを翻訳しました。人が情熱を注いでいることを翻訳するのは、気分がいいですね。英語で読者が読んだ時に、背景の人たちのことがわかるように伝えたいと意識しています。
ーー:私が翻訳の仕事が好きなのは、メッセージを伝えられるからだと最近思うようになりました。プロジェクトが終わった後、人々が次にどういう行動をとるかをいつも想像するようにしています。
日本語で黒子役という言葉もありますが、翻訳は人や組織を陰で支える舞台裏の仕事と思われがちですが、実際は、人々がこれから起こしていくような行動に深く関わっています。そして、その行動を起こさせるのが、マスカルさんのような翻訳者だと思うんです。そういうメッセージを広めたいですし、チームとしてその目標に取り組みたいです。
得意とする翻訳の分野
ーー:では次の質問ですが、最も得意とする翻訳の分野とその理由を教えていただけますか。
マスカル:最も多いのは、広告、マーケティング、そしてIR(投資家向け広報)だと思います。
ーー:それは、大学時代にマーケティングを勉強していたからですか?
マスカル:大学ではメディア専攻で、マーケティングや広告、そしてIRの分野ともつながっているのは確かです。しかし、仕事のほとんどは、マーケティングというより、コミュニケーションに関連したものです。企業は年次報告書を発表し、自分たちがしていることや財務的な成果、地域社会への貢献などについて説明します。最近、話題に上るのは、CSR(企業の社会的責任)やESG(環境・社会・ガバナンス)で、サステナビリティ(持続可能性)も重要なテーマです。多くの企業がこの分野に力を入れていて、私の仕事も、サステナビリティに関連する翻訳が大きな割合を占めています。大学で学んだことが仕事で少しは役立っているかもしれませんが、翻訳者としての知識は、読書をしたり時間をかけたりすることで身につけられるもので、。大学で直接学んだことのない分野でも翻訳はできます。私も、時には決算報告などの翻訳をしたりすることもあります。大学で経済学を学んだわけではないですが、細部にまで気を配って、必要な参考資料などを使えばできるということです。
翻訳者を目指す人は、少し経験があったり自信があったりする分野から始めるのがベストだと思います。でも、新しいものに挑戦することも怖がらないでください。自分にもできそうだと感じたら、挑戦してみることです。ただ、時間をかける必要があります。また、手に負えないレベルや分野のものはやらないことです。
挑戦したい分野
ーー:マスカルさんも、新しいことに挑戦しようと考えていらっしゃいますか?何か具体的な分野はありますか?
マスカル:長期的には、医療関連の翻訳をもう少しやってみたいですね。この分野は常に進化し、新しいことが起きているような気がしますから、決してなくならないでしょう(笑)。長い間、医療関係の翻訳などはかなり特殊な分野だと考えていました。でも、今は製薬会社の仕事もすることがあります。新鮮な気持ちで仕事をしたり、仕事の選択肢を広げたりするために、そういう方向にも少しずつ進んでいけたらいいと思います。
ーー:現在はフリーランスとしてのキャリアを確立され、プロとして日本語を使っていらっしゃいますが、日本語をブラッシュアップするためにどういうことをされているのでしょうか?
マスカル:翻訳者というのは主に文章を扱う仕事だと思うので、いつも日本語の文章を読んで、読んで、さらに読もうと努めています。携帯電話でニュースを読むだけでなく、時には新聞を買うこともあります。読む記事の分野はいろいろです。経済コラムや芸能コラム、ローカルニュースに国内・国際ニュースも読みます。幅広い分野の記事を読むことで、より多くの情報を吸収して、スピーディーに日本語を読めるようにし、新しい漢字を覚えようとしています。今でも言葉のリストを作ったりしますよ。
それでも時々、知らない言葉やあまり見たことのない言葉、忘れてしまった言葉に出会うことがあります。そういう言葉をリストアップして、そのリストに目を通すようにしています。今は日本にいるので、日本語に関しては少し楽で、自然に集中できますね。テレビでは日本の番組を流して、英語のメディアは制限するようにしています。でも、翻訳には英語の表現も重要なので、英語を読むことも大切です。他の翻訳者の作品を読んだり、一般的な英語の文章を読んだりして、英語表現力を維持するのはいいことだと思います。とはいえ、日本に来たからには、家の中でも外でも、日本語を話す機会を増やしたいですね。
今後の目標
ーー:マスカルさんの今後の目標は何でしょうか?
マスカル:今はこの仕事を続けていくことです。忙しい時もありますが、翻訳の仕事を本当に楽しんでいますし、よいものを作っているという満足感があります。自分のスキルを使って仕事をし、他の人が喜んでくれて、できあがったものをネットで見ることができるのでやりがいがありますね。また、自分が日本語から英語に翻訳したという満足感もあります。小学生の頃は、日本語を見ても一言も理解できませんでしたが、今は理解できるだけでなく翻訳もできるんですから。
キャリア上の目標という意味では、機会があれば、通訳の仕事もやってみたいと思っています。翻訳は文章にフォーカスしていますが、通訳だと直接人と関わることで人間的にも日本語のスキル的にも成長できるように感じるんです。
ーー:翻訳関係の目標があるとは思っていましたが、通訳をやってみたいと思っていらっしゃるとは…。モチベーションを維持して勉強を続け、語学力を向上させるためには、素晴らしい目標だと思います。
マスカル:複雑な日本語の文書を英語にする翻訳には、とても充実感を感じていますが、長期的に見れば通訳という方向に進むのもよいかもしれないという思いがあります。
翻訳者志望の人へメッセージ
ーー:では最後に、オーストラリアで日本語を勉強している、翻訳者志望の人へメッセージをお願いします。
マスカル:「あきらめないで」とだけ言いたいです。少しず学び続ければ、やがてそれが実を結び、自分の語学力の向上ぶりに驚く時が来るはずです。日本にいてもいなくても、日本語にどっぷり浸って学ぶことが大好きになってください。自身の上達を実感することで、達成感を味わうことができます。それを翻訳に活かし、翻訳について学び、翻訳者になるために行動してください。怖がらずに、あきらめることなく。
ーー:すてきなメッセージですね。今日はありがとうございました。
マスカル:ありがとうございました。