TRANSLATION

Vol.34 翻訳は言葉をつなぐパズルのよう

ハイキャリア編集部

翻訳者インタビュー

【プロフィール】

高島京子さん Kyoko Takashima

幼少時代をニューヨークで過ごし、その後日本とアメリカとを数年ごとに行き来する。ワシントンDCのジョージタウン大学を卒業。米中商工会議所でのインターンシップ、シカゴ商品取引所での先物ブローカー業務などを経て、台北のアパレル会社勤務。現在は中国語の勉強をする傍らフリーランスの日英翻訳者として活躍。

Q.語学に興味を持たれたきっかけについて教えてください。

子供の頃、父が仕事の関係で二度アメリカに転勤したのですが、それに伴い、家族が日本とアメリカを行ったり来たりしていましたので、バイリンガルな環境で育ちました。引っ越すたびに、現地の言葉を身につけなければなりませんでした。サバイバルのためでしたが、それが決して嫌ではなく、言葉の仕組みを学ぶことがまるでパズルのようで好きでした。学べば学ぶほど世界が広がる達成感がありました。

最初にニューヨークに移り住んでから8歳で日本へ帰国したあとは、英語力をどう維持するかということが問題でしたが、両親が英会話や帰国子女の会などに通わせてくれたお陰で、小学生レベルの英語とはいえ、その後アメリカの高校に編入した際の英語の基礎となり、とても助かりました。アメリカでも自宅ではいつも日本語での会話だったのですが、それが逆に日本語の維持に役立ったのだと今では思います。

日本に戻ってからも、国語はもちろん、古典や漢文も得意分野でした。アメリカの大学では中国語やイタリア語を勉強し、また日本文学の教授のリサーチアシスタントとして、日本語と英語の翻訳や通訳などをする機会に恵まれたこともあり、語学関連の仕事は自分に向いているのではと感じていました。翻訳は孤独で地道な作業ですが、それがかえって自分の性格には合っていて、将来翻訳者の道に進むことができればいいな、と思うようになりました。

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Q.翻訳をご職業にされようと思われたのはいつ頃でしょうか?

大学時代に翻訳や通訳の経験を多少積んだことで、職業として翻訳業に携ることは漠然とは考えていましたが、卒業後はシカゴ商品取引所(Chicago Board of Trade)で現地のブローカーと日本のクライアントとの掛け橋となりオーダーを執行する仕事をしました。そこでは業務の一環としてマーケットレポートの英訳を任されるようになり、金融関連の翻訳の基礎を築くことができました。また、米中商工会議所では、中国への語学留学経験もあったことから興味をもった米中間のビジネス面での交流について勉強させていただきました。このような経験を経て、国際交流や異文化コミュニケーションにかかわる仕事にますますひかれるようになったのですが、本格的に翻訳の仕事をはじめたのは、引越しを頻繁にし始めた頃です。ここ数年でも、シカゴ、ニューヨーク、台北、と移り住んでいますが、パソコンとインターネットさえあればできる仕事である、ということはとても大きな魅力のひとつです。テンナインさんに登録させていただいたのも、ちょうどニューヨークに越したときだったと思います。語学を活かした仕事をしたいという思いとライフスタイル面でのニーズの両方を満たす翻訳業に自然とたどりついた、といえます。

Q.失敗談などございましたら教えてください。

今のところは、幸い大きな失敗は有りませんが、それに甘んじず、日々が勉強だと思って、一つ一つの仕事を丁寧にこなして行くことだけはいつも心掛けています。

Q.もし翻訳者になっていなかったら?

金融関係や貿易関係など、やはり好きな語学を活かせる仕事を選んでいたとは思います。ただ、ライフスタイルからすると、本当に翻訳の仕事が今の自分に合っているので、正直翻訳以外は思いつきません。翻訳のレベルに達するにはもっと勉強が必要なのですが、中国語を学んでいます。台北に越してからは、現地のアパレル会社でしばらく勤めていたのですが、中国語の勉強になったことはもちろん、こちらの組織の文化やビジネス習慣に対する理解も深めることができました。せっかく中国語圏に住んでいるので、中国語は今後も学び続けていきたいと思っています。日々、様々なニュースに目を通す習慣をつけ、インプットされた知識や情報が素早く日本語、英語、または中国語で出てくるようにさらに努力をしていきたいです。

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Q.以前、YMCAにて小学生にボランティアでバイオリンを教えていらしたということですが、ご趣味は何ですか?

最近は全然練習していないのですが、子供の頃からバイオリンを習っていたので大学時代にはオーケストラに入っていました。ボランティアで地元のYMCAに行き、ワシントンDCに住む子供たちの課外活動としてバイオリンを教えていました。バイオリンは現在冬眠中ですが、今、はまっているのは洋裁です。もともと手芸が大好きで、帰国すると母とユザワヤに行ったりします。洋裁は台湾人の先生に習っているのですが、日本でも洋裁を勉強され、パターンの作成など日本の洋裁教育に基づいたシステムを台湾で広めている方です。日本で指導を受けた台湾人の先生に、私のような日本人が中国語で洋裁を教わる、というのも少し面白い話ですが、台湾と日本の歴史を考えると納得です。

洋裁が好きになったのも、翻訳と似ている点があるからでしょうか。洋裁も翻訳もプロジェクトベースで作業を進めていくところが共通しています。努力の成果が直にみられて達成感を味わえますが、少しでも手を抜けばそれも一目瞭然です。翻訳ですと正確かつ適切で統一感のあるきれいな訳文、洋裁ですと裁断から縫製、アイロンがけまできちん仕上げた美しい洋服–どちらをとっても細部まで神経が行き届いた完成度の高いものは、すばらしいと思いますし、そういう仕事ができるようになることを目指しています。細かい作業が苦にならないので、翻訳をする際も、言葉をパズルの様にパーツパーツで組み合わせて、どうすれば一番きれいな仕上りになるかな、と考えながら作業します。絵を描くことも好きで、構図などを考えるのが楽しいです。翻訳のときもレイアウトをきれいに整えたりするのがもともと好きですね。

Q.今後の目標は?

日英翻訳の実力を高めていくことはもちろんですが、中国語ももっと上達させたいです。将来的には翻訳できるくらいのレベルになることも視野に入れています。

Q.翻訳者を目指している方に向けてのメッセージ・アドバイスをください。

自分の得意分野を確立する、ということは実は大切ですね。得意分野を作って自信が持てる翻訳ができるようになれば、それだけ翻訳会社からお仕事を頂けるようにもなるのではないでしょうか。また、先にもお話しましたが、やはり日頃から積極的に情報収集するという心掛けが大事です。興味のあること以外の分野でも、新聞やテレビなどから得る情報は翻訳する際にとても役に立ちますから。リサーチ力を養うことは大切だと思います。

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編集者後記:

 テンナイン翻訳部でも引っ張りだこの高島京子さん。今回は普段お住まいの台北から一時的にご帰国されました機会に、このインタビューを快くお引き受けくださいました。お願いするお仕事ではレイアウトまで完璧に統一された素晴らしい内容。以前から是非お会いしたいと思っていましたので、直接お話しができたことが本当に嬉しかったです。また、

ご本人は否定なさっていましたが、翻訳のお仕事のやり取りの随所からうかがえる几帳面さと、お仕事に対する責任感、語学への飽くなき探求の精神には、本当に”脱帽”です!

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記事を書いた人

ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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