Vol.7 実務翻訳のおもしろさ
[プロフィール]
今泉綾子さん
Ryoko Imaizumi
青山学院大学経営学部在学中、米国オレゴン大学に1年間交換留学。帰国後、米国金融経済通信社ブルームバーグニュース東京支局にインターンとして入社。大学卒業後、同支局に正式採用され、英字ニュース記者として活躍。英文で記事を書く傍ら、職務の一部として経済誌、一般誌記事の翻訳を行う。6年間の勤務を経て、2003年冬よりフリーランス翻訳者として独立、現在に至る。
Q. 英字ニュース記者としてのキャリアをスタートされたきっかけは?具体的なお仕事内容についても教えて頂けますか。
留学から帰ってきて、英語力を維持する方法はないものかと思っていたところ、ブルームバーグの募集を見つけたんです。当時はニュースルームが小さく、ブルームバーグ自体もインターンを採用し始めて間もない頃で、本当にいろんなことを経験させて頂きました。だんだん面白くなってきて、取材を重ねるうちに記者として働きたいと思い、正式に入社しました。既に出ているニュースに関しては、新聞・テレビ・他通信社が流している記事を読んで、内容の真偽を確認します。例えば、企業に関するニュースなら、企業広報部に電話して真偽を確認し、それをもとに英語で記事を書くんです。特殊・独自ネタの取材もあり、自分で「ここにニュースがあるかも」と計画を立てて、取材し記事を書くこともありました。
Q. 相当英語力が必要なのでは?
最後にネイティブエディターのチェックが入りますが、「内容を簡潔に伝えられる文章」でないと却下されます。わからないこと、疑問に感じたことは、ネイティブの記者や同僚に確認できたので、恵まれた環境を与えて頂いたと思っています。エディターチェックの際も、どうして直されるのかを隣で見ることができたので、大変勉強になりました。このお陰で、日英翻訳と英語で記事を書くことに対しては、自分でも自信が持てるようになりました。
Q. フリーになろうと思ったきっかけは?
すごく楽しくて、いろんな経験をさせて頂きましたが、ここ1-2年ぐらい、自分にはそれほど向いてないんじゃないかなと思っていたんです。ジャーナリズムの仕事は、非常にdemandingで厳しいものです。仕事上、強引に事を進めないといけない時もあり、仕事だからと割り切れているうちはよかったんですが、これを何年も続けるとなると難しいかなと思ったんです。気持ちの上では、「この次を考えないと」と考えていたのですが、実際行動に移すまでには、1年前後かかりました。
Q. 他人の書いた文章を翻訳することについては?
ニュースだと、「ここにニュースがあるかもしれない」と考えることから始まって、取材に行き、どう見せるかを決めて記事を書きます。それに比べて、翻訳は既に原稿として完成されたものを他の言語で表す作業なので、その分「書くこと」に集中できるんです。納得いくまでリサーチする点では、どちらも同じだと思います。記事を書くにしても、わからないことは書けないし、母国語以外の言語で書くとなると、その分野についても精通していないといけません。そういう意味では、分からないことを調べる習慣やプロセスは、今の仕事に役立っているといえます。
Q. 学校に通った経験は?
全くありません。ブルームバーグの時もそうでしたが、全てOJTです。翻訳の仕事に応募する時も、かなり悩んだんです。学校に通った経験がないと、仕事はもらえないのかと不安になって。日英はずっとやってきたので、ある程度自信はあったんですが、英日は不安でした。例えば、英語を読むときには、「なるほど、こういう表現もあるんだ」と思いながら注意して読むんですが、日本語の文章は趣味で読むぐらいの感覚だったんです。英日翻訳をスタートした時は、日本語をどの程度自然にすればいいのか、どういう仕上がりにすればいいのか、ものすごく悩みました。今も日本語表現に苦しんではいるんですが、毎回本当に勉強させて頂いています。英日の仕事をするようになって、日本語に対する接し方が変わりました。新聞を読む時にも、言葉や言い回しに注意して読むようになったので、またちょっと面白さが加わったかなと感じています。
Q. 1週間のスケジュールは?
まだフリーになったばかりなので、空いている時間はどんどん仕事を入れています。睡眠と食事の時間以外は、仕事をしていますね。依頼を頂くこと自体が今は喜びなんです。ちょっと体力的にきついなと思っても、断ろう!、とは思いません(笑)。ブルームバーグでは、常に時間に追われていて、ヘッドラインを1本送ったら、5分以内に記事が出ます。記事が出たら、15分以内に4パラグラフの記事を出さないといけなかったので、ある意味Time pressureの中で働くことには慣れています。今は逆に自分で時間配分を決められるのも楽しみの一つです。
Q. ストレス発散方法、ご趣味は?
散歩が好きです。一日中「コンピューターと私」ではストレスがたまるので、気分転換に散歩に出かけます。外に出て初めて、「あぁ今日は晴れていたのか」と(笑)。料理も好きで、3時間後ぐらいに原稿が来るとわかっている場合、料理しながら待っているといい時間にくるんですよ。心配性なので、待つ時間はいろいろ考えてしまうんですが、料理は暇になることがないのがいいですね(笑)。
Q. ご実家に戻られると伺いましたが。
親と暮らしてみたかったんです。10年以上東京にいて、もう十分かなと(笑)。もちろん東京じゃないとできないことはたくさんありますし、友達も増えたので名残惜しいのですが、地元のほうが自分に合っているようです。在宅翻訳をするのに場所は関係ないので、どうにかやっていけるんじゃないかと思っています。
Q. 今後の目標は?
短期的な目標としては、与えられる仕事を全力でこなしていくことです。文芸翻訳ではなく、あくまでも実務翻訳に携わっていきたいとも考えています。私が感じる実務翻訳の面白さとは、最新の情報をいち早く目にすることができるとこと。「この業界では、今こんなことが起こっているんだ!」、「まだこのニュースは誰も知らない!」と、訳しながらワクワクしてしまう自分がいます。もちろん守秘義務は厳守しますが、最新のニュースに触れられる喜びは何ものにも代え難いものです。
<編集後記>
一度お会いしてみたいと以前から思っていたので、感激です。北海道で新たに翻訳者生活をスタート後、将来的にはご主人のご実家であるインドに移住されるかもしれないとのこと。翻訳に場所は関係ありませんものね! 今回のインタビューでは、実務翻訳の面白さを新たな視点から教えて頂いたような気がします。