Vol.4 語学、そして「人間」に対する勉強を忘れずに
[プロフィール]
ブライアン・ルイスさん
Bryan Heath Lewis
Auckland University(ニュージーランド)卒業後、1968年来日。大学、中学校などで英語教育に携わる。その後、ニュージーランドに一旦帰国、1979年よりJustice departmentにてprobation officersの指導にあたる。1992年再来日、英語教育に携わる傍ら1998年よりフリーランス翻訳者として独立。法律関係・報告書・契約書などを得意とする。
Q. 日本語との出会いは?
教会主催のボランティアプログラムに参加し、1968年に来日したのがきっかけです。当時は日本語が全く分からず、本当に苦労しました。学校に通い、5年ぐらい日本で勉強したんです。それから今まで日本とニュージーランドを行き来していますが、今も勉強は続けています。
Q. 翻訳の仕事をするようになったきっかけは?
友達に頼まれたのがきっかけなんです。昔から翻訳の仕事ができたら、と考えてはいたものの、まだまだそのレベルには達していないだろうなと思っていました。でも実際やってみたら、結構できるもんだなと(笑)。ネイティブチェックなど含め、仕事としてお金を頂くようになって6年ぐらい経ちます。
Q. 翻訳のおもしろさ、大変さは?
もともと歴史が好きなんですが、社会情勢から、身近なところでは人々の日常生活の出来事にまで幅広く関心をもっています。人々、そして社会の動きに目を向けることで、文章を読んでいてもいわんとすることが自然に分かるようになるんです。これが翻訳にも役立っています。
一番大変なのは、翻訳後のチェックです。うまく訳せた! と思っても、最終的に細かい部分まで完璧にするために何度もチェックするのが大変です。
Q. ネイティブチェックをしていて何か感じることはありますか?
日本人は非常に努力家だと思います。英語学習に関しても、とても真剣に取り組んでいる人が多いです。ただ私の狭い経験だけで言えば、文章を本当にうまく書ける人には、まだ会っていません。翻訳トライアルの評価なども行っていますが、英語を十分に理解していても、原文に影響されすぎて、翻訳文として成り立っていない場合が多々あります。もちろん私には、その人が今までどういう勉強をしてきたか、またどういう経歴の持ち主なのかは分かりませんが。少し直せば良くなるのにと思う翻訳はたくさんあります。
Q. 教育関係のお仕事にも就かれているようですが?
いわゆる’education’というよりも、trainingやcoachingに興味があったんです。学校で何かを「教える」というよりは、小グループや個人単位のtrainingの方が好きなんです。まぁ実際には、学校での活動の方が多いのですが。
Q. 今後のキャリアプランは?
今までいろんなことをやってきましたが、これからも全部続けていけたらと思っているんです。更に上を目指して。ただ、どれか一つと言われれば、やはりtrainingやcoachingに関することでしょうね。Justice departmentでやっていたようなことができれば、と思っているんです。ニュージーランドは多民族国家ですから、本当にいろんな人がいます。例えば、Justice departmentで働くにしても、英語ができないとハンディになりますよね。そこで、私が何か役に立てるような事があればと思うんです。「教える」というと、学校の先生を思い浮かべる人が多いと思いますが、私の考えるそれは、少し違うんです。例えば誰かが何か具体的な目標を持っていて、その目標を達成するために、私が力になれることがあるなら、喜んで協力したいんです。応援したい、役に立ちたいんです。それが、educationとtrainingの違いだと思います。
Q. ボランティアでも、そのような活動をされていると伺いましたが。
小グループでの活動や、そのtrainingをしています。個人の悩みを聞いたり、カウンセラー的なこともやっています。大抵の活動は日本語で行っていますが、こんな日本語に付き合わされるんですから、相手もたまったものじゃありませんね(笑)。
Q. 未来の翻訳者へのアドバイスをお願いいたします。
言葉を一生懸命勉強すること。母国語も含めてです。文章を書くのは人間ですから、「人間」に対しての勉強も忘れてはいけないと思います。
<編集後記>
日本語を勉強していて、よかったと思う瞬間は? と尋ねたら、冗談が通じたときです、とのお答えが返ってきました。 Educationとtrainingの違いについてのお話、そして人間を見つめるそのまなざしの温かさには、深い感銘を受けました。