前回の宿題
日本とアメリカの社会保障に関する合意の条文からでした。
http://www.mofa.go.jp/region/n-america/us/agree0402.pd
【例文】
15.5 Articles 5 and 6 shall apply only to benefits for which an application is filed on or after the date this Agreement enters into force.
15.6 The application of this Agreement shall not result in any reduction in the amount of a benefit to which entitlement was established prior to its entry into force.
【訳例】
15.5 第5条および6条は、本合意の発効日以後に提出された申請による給付金にのみ、適用されるものとする。
15.6 本合意の適用により、本合意が発効する前に確定した受給資格に対する給付金の金額が減額されることはないものとする。
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on or after the date… は、その期日を含めた「~以後」という意味でしたね。
prior the date…の方は、その日よりも前を指します。
では、今回の本題へ。
「以上」「以下」「未満」など、ある数を基準にしてそれより多い、またはそれより小さい数量を表す表現は、意外に注意が必要です。
まず、日本語の意味を確認しておきましょう。
チェッカーの仕事をしていて驚くことがあるのですが、ときどき曖昧なまま使用している方がいらっしゃるようです。
「以上」や「以下」など、「以」の文字を含む表現の場合、基準の数を含みます。
「10日以上」は「10日」と「それより多い日数」を指します。
「100人以下」といえば、「100人」と、「それより少ない人数」を表します。
「未満」は、もちろん、基準の数を含みません。
「100人未満」=「99人以下」です。
◆ more than ~ / not more than ~ / no more than ~
more than 10 days とあれば、「10より多い日数」です。すなわち、「11日以上」になります。「10日以上」ではありません。同様に、more than 1 million yen は、「100万円より多い金額」であって、「100万円以上」ではありません。
金額の場合は日数や個数、人数は違って、場合によっては1円未満の金額が関与することもあるので、more than 1 million yen は、「100万1円以上」ではない場合もありますから、注意が必要です。
【例文】
Full Majority Vote is a vote in which more than 50% (more than half) of the Voting Members vote "yes", regardless of the number of Voting Members present in the meeting.
【訳例】
完全多数決とは、その会議に出席する投票会員の人数にかかわらず、投票会員数の50%より多い(過半数の)人数の投票会員が「はい」と投票する決議である。
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more than 50% を「50%より多い」と訳すのはなんだか自然な日本語ではない気がするかもしれません。more than 10 days なら「10日より多い日数」と言わずに「11日以上」としてもいいのですが、上の例文のようにパーセンテージで表されている場合、more than 50% を 「51%以上」と言い直すことはできません。なぜなら、たとえばこの投票会員が全部で101人いるとして、最低でも51人が「はい」と投票すれば多数決成立です。でも51人は101人の50.0495…%にしかなりませんね。「51%」ではありません。
例文では50%の後に more than half と但し書きがあるので上記のように訳しましたが、この但し書きがなければ、more than 50%を「過半数」と訳してもよいでしょう。
not more than はどうでしょうか。
not more than 7 days は、「7日より多くない日数」、すなわち「7日以下」です。
【例文】
The Parties shall review the operation of this Agreement not more than five years from the date of its entry into force.
【訳例】
両当事者は、本契約の運用を、本契約の発効日から5年以内に見直すものとする。
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no more than という表現もあります。
【例文】
Special Majority Vote is a vote in which at least 2/3 (two thirds) of the Voting Members vote " yes" and no more than 1/4 (one fourth) of the Voting Members vote "no".
【訳例】
特殊多数決とは、投票会員数の少なくとも3分の2が「はい」と投票し、「いいえ」と投票する投票会員が4分の1以下である決議である。
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not more than も no more than も、その数「以下」という意味になります。
ただし、これが法律文書ではないところで用いられるとき、not more than と no more than は若干ニュアンスが異なるので注意しましょう。
no more than 5 days という場合、no は強い否定の意味があるので、「決して5日より多くはない」→「わずか5日」という意味合いになります。
not more than 5 days の場合は、not は単純な否定に過ぎないので、「5日より多くはないだろう」→「せいぜい(多くて)5日」という意味合いになります。
法律文書では、そういった感情的な差異を表現する必要はないので、単純に「~以下」と訳して構いません。
では、宿題です。
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