TRANSLATION

第92回 世界経済フォーラムのレポート②

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。1ヵ月空いてしまい、すみません! 今回も前回に続き、「世界経済フォーラム(WEF)」が2025年1月に発行した世界経済の最新見通し「Chief Economists Outlook: January 2025」から取り上げます。原文はこちらからダウンロードできます。英語自体は簡単ですが、案外訳しにくいので、翻訳初心者の方もぜひチャレンジしてみてください。

今回は1. Downside risks have risenの2段落目、前回の続きです。

【本日の課題】
At the time of writing, the International Monetary Fund’s (IMF) latest projection is that the global economy will expand by 3.2% this year, unchanged from 2024, and that it will slow marginally to 3.1% over the next five years. This remains one of the weakest medium-term outlooks in decades.

個別に取り上げるべき英語表現はなさそうですね。今回は意味を理解した上で、それをどう自然な日本語にするかが重要となりそうです。というわけで、まずは直訳してみます。

【直訳】
執筆の時点で、国際通貨基金(IMF)の最新の予想は、世界経済は2024年から変化せず、今年3.2%拡大する、そしてそれは、今後5年間で3.1%へと僅かに減速するであろう、である。これは引き続き、数十年間で最も弱い中期見通しの一つである。

●the IMF’s latest projection is that…
直訳は上記の通りですが、「IMFはthat以下と予想している」…①の方が日本語としては自然です。ただ今回の場合、that以下の訳があまりに長いと、読者は予想しているのが誰か忘れてしまうので、「IMFは次のように予想している。すなわち~」…②などにする手もあります。また①の変形として「that以下である、とIMFは予想している」もいいですね。

①の場合、latestの処理に困りますが、At the time of writingすなわち「直近」ですので、訳を入れない判断もアリです。

●unchanged from 2024
訳文のどこにこの表現を入れ込むかが問題ですね。こういう場合は、英語の構造がどうなっているかではなく、意味を考えた上で、その内容をイチから日本語で表現したらどうなるか、を考えて訳しましょう。選択肢としては、
①2024年と同じ○○である
②○○であって、これは2024年と変わらない
の2つ。

どちらにするか難しいところですが、「○○である/であって」の部分があまり重くない(長くない)なら、どちらでもヨシ、重いようなら、①が良いでしょう。

●This remains one of the weakest medium-term outlooks
これも直訳のままにできない部分。恐らく著者の頭の中には、「ここ最近出されていた中期見通しはどれも弱かったが、今回もまた弱いなあ」という感じをremainで表しているのだろうと思います。直訳のように「引き続き」とか「依然として」など型通りの言葉を入れてもよいのですが、今回の場合、「ここ最近」がいつかがはっきりしないので、明示的な訳語を入れないのも一手かと思います。

それでは「である」調で訳してみましょう。試訳は、上記の①と②をなるべく盛り込んで、2つ作ってみました。

【本日の課題】(再掲)
At the time of writing, the International Monetary Fund’s (IMF) latest projection is that the global economy will expand by 3.2% this year, unchanged from 2024, and that it will slow marginally to 3.1% over the next five years. This remains one of the weakest medium-term outlooks in decades.

【試訳】
①本稿執筆時点で、国際通貨基金(IMF)は世界の経済成長率について、2025年は2024年と変わらず3.2%、また5年先はこれよりわずかに低い3.1%に留まると予想している。中期見通しとして、過去数十年の中でもとりわけ低い数値であることは変わらない。

②本稿執筆時点で、国際通貨基金(IMF)の直近の予想は以下の通りである。すなわち2025年は3.2%と、2024年から横ばいだが、5年先はそれよりやや低い3.1%にとどまろう。中期見通しとしては、過去数十年間で最も低い数値の一つである。

これ以外にもいくらでも訳しようはありますので、ご自分でもトライしてみてくださいね。

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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