第89回 業績発表のプレスリリース
こんにちは。先月までは東証上場企業に公表が義務づけられている決算短信をちらちら見てきましたので、今回は米企業の業績発表からつまみ食いしてみましょう。ここ最近、業績、株価ともに絶好調の半導体大手NVIDIAのプレスリリースです。
タイトルは
NVIDIA Announces Financial Results for Third Quarter Fiscal 2025
で、ちょっと注意すべきは下線部でしょうか。「2025年会計年度第3四半期」で間違いではないのですが、本講座の第65回「企業のウェブサイト①」でお話した通り、第3四半期が正確に何月に当たるかを書かねばならないことも多いので、調査できるようにしておきましょう。詳細は第65回をご覧ください。
NVIDIAは巨大企業ですから、すぐに調べはつきます。同社の場合、事業年度は2月始まりのようなので、2025年度は「2024年2月~2025年1月」、第3四半期は「2024年8~10月」。日本ですと、2024年4月~2025年3月が「2024年度」なのが普通ですが、外国ではこのNVIDIAのように終わりの月が属する年を年度名として採用する企業も多いので、要注意です。よってタイトルの訳は「エヌビディア、2025年会計年度第3四半期(2024年8~10月期)業績を発表」となります。
本文は長いので、今回は冒頭の数値部分のみ拾ってみます。
【本日の課題】
NVIDIA today reported revenue for the third quarter ended October 27, 2024, of $35.1 billion, up 17% from the previous quarter and up 94% from a year ago.
For the quarter, GAAP earnings per diluted share was $0.78, up 16% from the previous quarter and up 111% from a year ago. Non-GAAP earnings per diluted share was $0.81, up 19% from the previous quarter and up 103% from a year ago.
NVIDIA will pay its next quarterly cash dividend of $0.01 per share on December 27, 2024, to all shareholders of record on December 5, 2024.
では詳しく見ていきましょう。
●the third quarter ended October 27, 2024
調べずとも「2024年10月27日に終了する第3四半期」とちゃんと書いてありましたね。つまり「8~10月期」です。28日以降もbusiness dayが何日かあるので、ちょっと気になりますが、こういう場合、日本語では10月期としてしまうのが通例です。
●GAAP/Non-GAAP earnings per diluted share
まずGAAPはGenerally Accepted Accounting Principlesの略で、きちんと訳すとすれば「一般に公正妥当と認められた会計原則」。米国GAAP(米国会計基準)、日本GAAP(日本会計基準)などと通称されます。今回のNVIDIAは、当然ながら米国会計基準に従っています。
米国市場に上場する企業は、GAAPに沿った財務諸表を作成・公表する義務がありますが、これには一時的な理由で生じた利益や損失も含まれるため、それらを除いた「非GAAP」ベースの数値も公表することがあります。企業としては、今回は特別な理由で損失が多いけど、それを除けばそんなに悪くありませんよ、みたいなことを主張したいわけですね。
※NVIDIAのプレスリリースでは、”Non-GAAP Measures”として、なぜ非GAAPの財務指標も公表するのか、GAAPとはどう違うのかも説明されていますので、興味のある方は読んでみてください。
earnings per diluted shareのうち、dilutedを除いたearnings per shareは、いわゆるEPS(一株あたり利益/一株利益)。利益をその企業の全株数で割った数字です。
ではdiluted share、薄められた株式とはなんでしょうか。例えば全部で100株発行している企業が1,000円の利益を上げたとすると、EPSは1,000円÷100株で10円になります。ところが、この会社が当期中に株式を追加でもう100株発行したとすると、同じ1,000円の利益でも、EPSは1,000÷200で5円。まさに薄められてしまったわけです。これを「希薄化後EPS」と言います。
希薄化の理由としては、新株の発行以外に、convertible bond(転換社債:一定の条件で株式に転換できる権利がついた社債)が株式に転換されたり、stock option(ストックオプション:一定の条件で株式を取得できる権利)が行使されたりして、発行済み株式数が増加する場合も含まれます。
長くなりましたが、よってGAAP/Non-GAAP earnings per diluted shareの訳は「GAAP/非GAAPベースの希薄化後EPS」になります。
●next quarterly cash dividend
cash dividendは「現金配当」。配当は、時に株式そのものを渡したり、モノを配ったりすることもありますが、ほとんどの場合は現金で分配されます。nextは当然ながら「次回の配当として」の意味だと思いますが、未来の日付も入っていますし、むしろ訳さない方が良いでしょう。
●to all shareholders of record on December 5, 2024
企業は、自社が定めた「配当基準日」に株主名簿に登録されている人にのみ、配当を行います。従って、この基準日の翌日に株を買った人は、配当をもらえません。訳としては「配当基準日」を使ってもいいですし、英語に近い表現として「○日の登録株主を対象として」などでもOKです。
さて、ポイントは押さえましたので、数値表現に気をつけて訳してみましょう(ですます調で)。
【本日の課題】(再掲)
NVIDIA today reported revenue for the third quarter ended October 27, 2024, of $35.1 billion, up 17% from the previous quarter and up 94% from a year ago.
For the quarter, GAAP earnings per diluted share was $0.78, up 16% from the previous quarter and up 111% from a year ago. Non-GAAP earnings per diluted share was $0.81, up 19% from the previous quarter and up 103% from a year ago.
NVIDIA will pay its next quarterly cash dividend of $0.01 per share on December 27, 2024, to all shareholders of record on December 5, 2024.
【試訳】
エヌビディアは本日、2025年度第3四半期(2024年8-10月期)の売上高が、前期比17%増、前年同期比94%増の351億ドルに達したと発表しました。
当期の希薄化後EPS(一株利益)は、GAAPベースでは前期比16%増、前年同期比111%増の0.78ドル、非GAAPベースではそれぞれ19%増、103%増の0.81ドルでした。
エヌビディアは、2024年12月5日を配当基準日とし、2024年12月27日に一株あたり0.01ドルの四半期配当を行う予定です。