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第88回 決算短信④

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。今月も9月に続き、東証プライム上場企業に公表が義務づけられている決算短信からキーワードを拾って行きます。これまで、同書類の冒頭に記載されている「1.**年*月期の連結業績」のうち

  • 企業財務の損益計算書(P/L:Profit and Loss statement)に対応する「経営成績(operating results)」
  • 同じく貸借対照表(BS:Balance Sheet)に対応する「連結財政状態(Consolidated financial position)」

の部分を見ましたので、今回は最後、キャッシュフロー計算書(CF:Cash Flow statement)に対応する「連結キャッシュフローの状況(Consolidated cash flows)」を見て行きます。

損益計算書(P/L)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)は、企業の経営実績や財務状況を示す非常に重要な書類であり、合わせて「財務三表」と呼ばれます。ここ3回の課題として使っている「決算短信」は、その内容を速報的にまとめたものです。

※今回使用する資料の情報については本稿末尾に掲載しています。

損益計算書(P/L)が「一定期間」の業績、貸借対照表(BS)がその会社の「ある時点」の資産状況を表しているのに対し、キャッシュフロー計算書(CF)は、お金(cash)の流れ、つまりある期間内に、どういった経路でお金が入り、どういう理由で出て行ったのかに着目して作成される書類です。

将来に着目した単なる資金繰りの表と異なるのは、お金を何に使ったのか、資金に関していま会社はどういう状態にあるのか、が分かるという点です。例えばある商品が売れたとすると、入金がまだだとしても、貸借対照表では「売掛金」として「資産」の部に計上されます。しかしキャッシュが手元にないので、実際にそれを使うことはできません。そういった点がCFにははっきり表れます。(回収の見込みがない場合は、最終的に「貸倒損失」として計上することになります)

キャッシュフロー計算書(CF)は、企業の「営業」「投資」「財務」の3つの活動に分けて記載されます。

営業活動によるキャッシュフロー(Cash flows from operating activities
企業の本業で生じた収支(売上・支払いの増減)を記載します。経営が順調な企業は、この欄が「プラス」になります。

投資活動によるキャッシュフロー(Cash flows from investing activities
例えば工場で使う設備を購入(設備投資)または売却したり、投資目的で有価証券を購入・売却した場合のキャッシュの増減を記載します。積極的に設備投資を行っている企業は、この項目がマイナスになることがありますが、将来の成長につながる可能性を考えれば、一概に悪いこととは言えません。

財務活動によるキャッシュフロー(Cash flows from financing activities
事業のために銀行からお金を借りたり、社債を発行したりと、企業の営業活動や投資活動を支えるための資金をどの経路でどれだけ調達し、どれだけ返済したかが分かります。

以上3つのうち、営業CF投資CFを足し合わせたものを「フリーキャッシュフロー(FCFfree cash flow)」と言います。

例えばある月に1個150円の肉まんを600個売って9万円の売上(入金)があったが、もっと大きなスチーマーがあればもっとたくさん売れるのに、と考え、新たに10万円で購入したとすると、営業CFがプラス9万、投資CFがマイナス10万で、フリーキャッシュフローはマイナスとなり、何らかの財務活動で資金を調達しなければならなくなります。しかし次の月に800個売れて12万の入金があれば、マイナス状態は解消されるかもしれません。はたまた100万のスチーマーをいきなり購入し、FCFが大幅なマイナス状態になって、財務活動でもその穴が埋められなければ、あらら倒産、にもなりかねません。

実際のところ、こんなに単純ではありませんが、キャッシュフロー計算書はこういった感じの分析に用いられます。

この「連結キャッシュフローの状況(Consolidated cash flows)」には、「営業/投資/財務によるキャッシュフロー」の他に「現金及び現金同等物期末残高(Cash and Cash Equivalents at end of period)」が記載されています。

「現金同等物」とは「容易に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わない短期投資」で、例えば期間の短い定期預金や公社債投資信託などがこれに含まれます。簡単に現金に替えられるので「現金同等物」なわけですね。これと現金を合わせた残高が、前の期末と比べて増えていれば、当然ながら経営順調、減っていればその逆ということです。ただし投資CFのところでも言いましたように、将来の成長を見据え積極的に投資して(現金が減って)いる企業もあるので、そこは要注意です。逆に現金ばかり抱え込んで、成長投資も配当も行わない企業は、時に批判の対象になります。

今回までで財務三表について簡単に見てきましたが、この3つは独立して存在しているわけではなく、それぞれ密接に関係していますので、学習の際は、必ずその関連性を意識しながら知識を吸収してくださいね。

※今回は、日本取引所グループのサイトにアップされている以下の書類を使用しました。6月時点で掲載したリンク先ページがなくなっているようですので、こちらにアクセスしてください。

英文開示様式例(通期第1号参考様式【日本基準】(連結))
※すぐにダウンロードが始まります。

決算短信・四半期決算短信作成要領等(日本語)
(このうちP.22の「通期第1号参考様式〔日本基準〕(連結)」より)

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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