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第83回 ディスクレーマー⑥

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。今回も投資家向け文書に必ず載っているDisclaimerの中から、Foreign Currencyに関するリスクを見て行きましょう。今年からNISAを始める方も多いと思いますが、その際に必ず提示される注意事項の一つです。

2年前の円ドルレートが115円前後。その時にドルを買っておけば、いま1ドル当たり35円の為替差益が得られたはずだけれど、その時に円を買った人は逆に35円の差損。為替に関してはそういうリスクがありますよ、という話です。

では早速本日の課題を見ていきましょう。

【本日の課題】
Foreign Currency Risk: Investments in securities denominated in foreign currencies are subject to the risk that those currencies will decline in value relative to the U.S. dollar. Foreign currency exchange rates may fluctuate significantly over short periods of time.

●Foreign Currency Risk
為替相場の変動によって、保有する証券の価値が変わるリスクのことです。Foreign Currencyは「外国通貨(外貨)」ですが、日本語では「外貨リスク」より「為替リスク」の方が多く使われるかなと思います。「外貨/為替変動リスク」もアリです。

●denominated in foreign currencies
denominated inは「~建て」。例えば「円建て」ならば、その証券の価値が円貨で何単位に相当するか、要は円で言ったら幾ら?という話です(改めて説明すると何だか難しそうに聞こえますね)。

●subject to the risk
こういったディスクレーマーでは頻出の表現です。辞書では「リスクにさらされる」とあることが多いですけれども、例えばsubject to the risk of lossならば「損失リスクにさらされる」ではなく「損失が生じるリスクがある」「損失を被るリスクがある」としてしまって構いません。

●those currencies
投資家を相手とする文章は「読み物」の側面が強く、いかにもお堅い「当該」を使う感じではないことが多いのですが、ディスクレーマーでは係り位置を明確にするためにも積極的に使って良いと思います。

それでは訳してみましょう。

【本日の課題】(再掲)
Foreign Currency Risk: Investments in securities denominated in foreign currencies are subject to the risk that those currencies will decline in value relative to the U.S. dollar. Foreign currency exchange rates may fluctuate significantly over short periods of time.

【試訳】
為替変動リスク:外貨建て証券への投資においては、当該通貨の価値が対米ドルベースで低下するリスクがあります。外国為替相場は、短期的に大きく変動することがあります。

※ value relative to the U.S. dollarは「米ドルに比較した価値」、要は為替相場そのもののことを言っていますので、文脈によっては「対米ドル相場」でもいいのですが、次の文章の「相場」とかぶるので、ここは「価値」という言葉を英語通りに出しておくのがいいかなと思います。

実はディスクレーマーはまだまだ続くのですが、飽きてきたので(たぶん皆さんも?)、ここらでいったんやめておきます。また良い素材があれば取り上げてみたいと思います。

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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