TRANSLATION

第77回 習うより慣れよう⑧

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。今回はWhich Equities Have Outperformed When the Economy Slows?という小記事の最終回。図表を取り上げます。わたしも昔は、図表が出てくると何やら楽に訳せる感じがしてうれしかったのですが、経験を積むに連れて、実は図表は案外厄介である、ということが分かってきました。端的に表現されている分、理解しにくく、理解できたとしても、今度はその端的な英語を端的な日本語にするのが大変なんですよね。本文との齟齬にも注意する必要があります。

さて、今回は前回の課題に含まれていたFigure 2を訳してみましょう。

ここに出てくる2つの株価指数は、前々回説明した通り、
Russell 1000® Growth Index(ラッセル1000グロース指数)
=今後の成長が見込める「グロース株(成長株)」
Russell 1000® Value Index(ラッセル1000バリュー指数)
=株価が本来の価値より割安なまま放置されている「バリュー株(割安株)」

をそれぞれ1000銘柄ずつ組み入れています。

成長率が高い時、低い時、この2つの株価指数はどういった動きを示すのか、両者を比較するとどうなるかを示したのが、Figure 2です。

【本日の課題】

●Growth Equities Historically Have Performed Well in Periods of Slower U.S. Economic Growth
これが文中にあるなら、「歴史的に見てグロース株は、米国の経済成長率が鈍化する局面で良好なパフォーマンスを示してきた」で良いですが、図表タイトルですので、もう少しキレの良い日本語、できれば体言止めにした方が良さそうです。

この英語の場合、Historically以外はどれも必須の要素ですので、訳文を刈り込むとすればHistoricallyしかありません。とすると
米経済成長率の鈍化局面でグロース株は良好なパフォーマンスを実現
となります。あるいはコロン(:)を使って、
グロース株:米経済成長率の減速局面で良好なパフォーマンス
などとする手もあります。

Historicallyがないのが気になるかもしれませんが、図表を見れば過去の話であることは分かりますので、なくても許されるかなと思います。(この点、次回にでも深堀りしてみようかと考えています)

また「経済成長」を「景気」にすれば、文字数が少なくてすみます。

Average Index Returns During Periods of Low U.S. GDP Growth
ここは十分にスペースがあるので、「米国のGDP成長率が低い局面における株価指数の平均リターン」としてもいいのですが、正直、長すぎて読みにくい感じです。よって例えば「株価指数の平均リターン」という主たる情報(要は何の数字か、ということ)を前に持ってきて、during以下を( )に入れる手もあります。また、図表のメインタイトルに「米国」が入っていますので、ここは省略しても良さそうです。

●Avg.Excess Return (Growth-Value)
Excess Returnは「超過リターン」。Growth-Valueは「グロース株のリターンからバリュー株のリターンを差し引いたもの」という意味です。図表をよく見て理解しないと、この小さな小さな - の文字がマイナス記号であることに気付かず、ただ「グロース株-バリュー株」と並べて満足してしまいかねないので要注意。日本語の場合、全角にするなどマイナス符号をはっきり示さないと、分かってもらえない可能性もあります。

●Freq.of Growth Outperforming
Freqはfrequencyの略。グロース株がバリュー株をアウトパフォームした頻度ということですが、ここはスペースは小さいものの、「アウトパフォーム」という言葉は入れる必要はあるかなと思います。

●GDP Growth < 2.0%
記号を使わないで説明しようとすると、「GDP成長率が2.0%より低い時」のように長くなってしまいます。よってここは英語と同じく不等号を使った方が分かりやすいかなと思います。

さてそれでは全体の訳を見てみましょう。

【試訳】
※「グロース株-バリュー株」でもまだ分かりにくいと思うならば、例えば脚注を入れて、「グロース株のリターンからバリュー株のリターンを差し引いた数値」などと入れることを提案しても良いと思います。ただしこのあたりは読者層次第。「超過リターン」が何かがすぐ分かる読者が相手ならば、むしろ情報を最小限にした方が親切です。

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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