第63回 債券見通し⑤
こんにちは。この金融ポイント講座が始まって6年目に突入しました。今年も時にがっつりと、時にゆるゆると、金融翻訳を学んでいきましょう。さて、12月は遊んでしまいましたので、今月はがっつりの月です。昨年に引き続き、新興国債券市場に関する見通しの文章を読んで行きたいと思います。
今回の課題も「債券」の文字は一切出てきませんが、「新興国市場債券」についての話ですので、それを念頭に読んでください。
【本日の課題】
EM corporates entered the crisis last year on a strong footing. And in fact, default rates in emerging markets last year were lower than those of U.S. high yield. And as earnings continue to recover, we expect that bondholder-friendly behavior to continue with capex and M&A remaining limited.
●EM corporates/U.S. high yield
まず、EMはemerging marketsすなわち「新興国市場」ですが、「市場」まで入れて訳すことはむしろ少ないかもしれません。ここでも「市場」というよりは、先進諸国に対する「新興の国々」の意味で使われています。
さて、EM corporates/U.S. high yieldのどちらもbondsが省略されており、「新興国の社債(債券)」「米国のハイ・イールド債券」の意味になりますが、1文目では entered the crisis(危機に入った)とありますので、日本語にする場合は主語を「企業」にしないとおかしなことになります。その流れで、2文目も「ハイ・イールド債券のデフォルト(債務不履行)率」よりは、「ハイ・イールド債発行企業のデフォルト率」にした方が良いでしょう。このように、英語は「○○債」であっても、内容的にはその債券を発行している企業本体のことを指すケースが少なくありませんので、要注意です。
債券の中でも、国や政府機関でなく企業が発行する債券、すなわち「社債」はcorporate bondですので、これが省略されてcorporatesになったのでしょう。
債券見通し①の課題で説明した通り、一般には「債券」=bondsのイメージがありますが、同じ意味でfixed incomeやdebtも非常に頻繁に登場します。実際、今回の課題でも、わずか3段落の間にfixed income/debt/corporatesの3つが出てきましたが、すべて同じ「社債」の意味で使われています。日本語ならば「債(券)/社債」で必ず統一するところ、英語は何とか違う言い方をしたいみたいですね。筆者の真意はどうあれ、これも要注意ポイントです。
●on a strong footing
「しっかりした基盤」ですが、直後に企業のデフォルト(債務不履行)の話が出てくることを踏まえると「しっかりした事業基盤」、あるいは「堅調な業績」というニュアンスもあるでしょうか。
●earnings continue to recover
意味合いとしては「利益は引き続き回復」ではあるのですが、文脈からいって「業績」としてしまって問題ありません。
●bondholder-friendly behavior to continue with capex and M&A remaining limited.
意外にも本講座初登場のcapexはcapital expenditureを短くした言葉で、経済学的な意味としては「資本支出」。しかし特にcapexの形で出てきた時は、「設備投資」と訳した方がしっくりくる場合がほとんどのように思います。
ここではcapexとM&Aがbondholder-unfriendlyな行動であることを念頭に置いて訳す必要があります。なぜ債券所有者に優しくない(逆に株主寄りの)行動なのか、説明するには紙幅が少なすぎますので、興味のある方はそれぞれ調べてみてくださいね。
さて、今回も個別の説明だけで長くなってしまいました。訳出は次回です。