第52回 最新の記事を多読する③
こんにちは。3月にコロナ関係の文章を読んでから、はや半年以上が過ぎ、気がつけば年末になってしまいました。とても「最新」とは言えずすみませんが、きょうは今年1-3月期のまとめの文章(の冒頭)を読んでみましょう。
2008年のリーマンショック後、世界各国が競うようにしてmonetary easing(金融緩和)を進めていた頃と同様、最近の金融関係の文章からは、もはやCOVID-19の文字すら出てこないことが多くなりました。世界の全員がそれを承知しているのだから、言及の必要すらない、ということでしょうか。金融緩和では、何の説明もなくeasingだけで登場することが多くありましたが、金融政策の緩和と異なり、新型コロナの感染は人類全員に関係する問題ですので、省略がさらに進み、「コロナ」の一言も出さず、「新型コロナの感染拡大による世界・市場の変容」を大前提として話を進める文章が多く見られます。しかし文学ならいざ知らず、日本で一般に公開される報道や分析の文章では、必ずと言っていいほどきちんと入っていますので、翻訳では可能な限り、補足した方がいいように思います。
今回の課題も、pandemicとのみなっていますが、やはり「コロナ」の一言を入れた方が良さそうです。
【本日の課題】(米国株式市場のパフォーマンスに関する文章)
U.S. equities posted their worst quarter since 2008, with large cap stocks, as measured by the S&P 500, declining -19.60%, while smaller-cap stocks fared even worse, as the Russell 2000 Index declined -30.61%. All factors recorded negative returns; however, Momentum, Growth, and Quality were relative outperformers during the quarter. Much of the volatility during the quarter was attributed to the pandemic.
●large cap stocks
capはcapitalizationの略で、market capitalization(時価総額)が大きめの銘柄という意味です。「時価総額」は久しぶりの登場ですので、ざっとおさらいしておきましょう。
「時価総額」は上場企業の企業価値を示す指標の一つで、「株価×発行済株式数」で算出されます。例えば日本で最も時価総額の大きいトヨタ自動車の発行済株式数は、11月27日時点で23.77兆円。しかし世界4大IT企業の一角Appleの株価は、1.97兆ドルなので、比較にもなりません。日本企業ガンバレ。
smaller-cap stocks は時価総額が小さめの銘柄ということ。今回の原稿ではsmallerになっていますが、largeと比較しているだけなので、そのまま「小型株」で問題ありません。中型株はmid-cap stocksです。
●S&P 500/Russell 2000
どちらも米国の代表的な株価指数です。「S&P500種指数」は、NASDAQやニューヨーク証券取引所などの代表的な大型株500銘柄から構成される指数、「ラッセル2000種指数」は代表的な小型株から成る指数です。
S&P500の構成銘柄をもって「大型株」、ラッセル2000の構成銘柄をもって「小型株」に代替しているわけです。
●All factors/Momentum, Growth, and Quality…
どのようなポイントに着目して銘柄を選定するのか、その方針のことを「投資スタイル」と言うことがあります。ポイント一つ一つを「ファクター」と呼び、各ファクターに着目して運用を行う手法を「ファクター投資」と呼んだりもします。今回の原文のfactorsはまさにその意味ですので、「要素、要因」などではなく、「ファクター」とした方が良いでしょう。
有名なのが「グロース株」と「バリュー株」。今後の成長が見込める銘柄に投資するのがグロース株投資、(本来の企業価値に比して)株価が割安と思われる銘柄に投資するのが「バリュー株」です。「クオリティ」では文字通り「質の良い」銘柄を選び、「モメンタム」は相場の方向性や勢いに着目して銘柄を選定します。
だた、単に「質が良い」と言っても、何をもって質が良いと判断するのか、企業の「本来の価値」とは何か、等々に明確な基準があるわけではないので、同じスタイルを標榜する運用者でも、実際のところはかなり違うように思います。
●relative outperformers
運用報告ではよく出てくる表現です。outperform=out+performですから、いずれかの銘柄がいずれかの銘柄を上回るパフォーマンス(リターン)をあげたということ。よってそもそも「相対的」な話ではあるのですが、今回の原文では、絶対ベース(absolute terms)で見ればすべてのファクターの銘柄がマイナスのリターンになってしまったけれども、モメンタム株などは「他と比べれば」悪くなかった、と言いたいのでしょう。
それでは全体を訳してみましょう(ですます調で)。
【本日の課題】(再掲)
U.S. equities posted their worst quarter since 2008, with large cap stocks, as measured by the S&P 500, declining -19.60%, while smaller-cap stocks fared even worse, as the Russell 2000 Index declined -30.61%. All factors recorded negative returns; however, Momentum, Growth, and Quality were relative outperformers during the quarter. Much of the volatility during the quarter was attributed to the pandemic.
【試訳】
2020年1-3月期の米国株式市場は、四半期としては2008年以降で最も低調なパフォーマンスを記録しました。大型株(S&P 500)は-19.60%、小型株に至っては-30.61%と、大型株をはるかに上回る下落幅となりました。ファクター別に見ますと、当期、すべてのファクターがマイナス・リターンに沈むなか、モメンタム、グロース、クオリティが全体をアウトパフォームする構図となりました。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)が、株価ボラティリティ上昇の主な背景としてあります。