TRANSLATION

第43回 図表を訳す③

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。今月も「図表」を取り上げます。図表のグラフ部分は、狭いスペースに多くの情報を詰め込む必要があるため、場合によっては見たこともない略語のオンパレード!になることがあります。そこに著者独自の略語が混ざった日にゃ・・という不満はさておき、きょうは頻出する凡例をざっと見てみることにしましょう。

【LHS/RHS】【(E)/(F)】【tn/bn/mn/k】

LHSはLeft hand side、RHSはRight hand side、つまり上の図表ですと、Exports of goodsは左の目盛りを、Growth rateは右の目盛りを参照せよ、という意味です。

2020(F)の(F)は、Forecastsの略。FではなくE(Estimates)が使われることもあります。この2つ、意味としてはかぶる部分がありますが、estimateの語義に「見積もる」があることから分かる通り、estimateの方が具体的な数値を元にして確度の高い推定をしている、というイメージがあります。例えば上記のグラフを2020年の11月に作成した場合、恐らく10月くらいまでは速報値が出ているでしょうから、年初に予想するよりずっと確度が高くなるはずで、そうした場合に(E)が使われるようです。従って、「2019 (E)/2020 (F)」などとするケースもあります。

もっとも、この使い分けは著者によってかなり異なるというのがわたしの印象です。例えば「2019 (E)/2020 (E)」のように2年とも(E)の場合もありますし、けっこう確度が高いと思われる場合でも、(F)のことがあります(しかし当然ながら、先に(F)、次に(E)というケースは見たことがありません)。

ともあれ、それが著者の主張なのであれば、明らかにおかしくない限り、そのまま訳すのが翻訳者の務め。従って(F)は「予想」、(E)は「推定」などとするのが常道です。

tn/bn/mn/kは、図表でなくとも出てくる略語ですね。それぞれtrillion(兆)、billion(10億)、million(100万)、thousand(1,000)です。trillionはTやtrn、billionはB、millionはmil、mill、M、m、thousandはthouなども見たことがあります。kはもちろん、kiloのkです。

今回はもう一つ、線グラフならではの凡例を見ておしまいにしましょう。

【Rebased】

例えばここ一年間で、東証株価指数TOPIXは1,400~1,700の間を、日経平均株価は19,000~24,000の間を上下していますが、この2つは数値の桁が違いますので、たとえ両指数共に1,000ポイント上昇したとしても、TOPIXと日経平均ではその意味が大きく異なります。TOPIXが1,000上昇したら狂喜乱舞ですが、日経平均が1年間で1,000上昇しても、う〜んいまいち、という感じです。

それでも両指数の動きを比較したい時に、ある時点をどちらも100として、その後の推移を相対的に示す方法があります。上記グラフで見ますと、XXX指数は2016年1月時点で108ですから8%のプラス・リターンですが、YYY指数は98ですから2%のマイナスです。

このように、グラフで複数の項目の相対的な比較をする場合に使われるのがrebase、つまり「新しいベース(基準)を設定する」という動詞です。上記の場合ですと、Indices, rebased at 100 as of Jan 2010は注の形で出ていますから、「インデックスは2010年1月を100とする」などと文章の形のままでもOK。rebaseを使わず、図表の中にIndex Jan10 = 100などと入っている場合は、訳も「2010年1月10日=100」などとした方が良いでしょう。

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土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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