第41回 図表を訳す①
こんにちは。翻訳を少しでもやったことのある人なら、短い文章よりも、多くの情報を含む長い文章の方が訳しやすい、という点には同意していただけるものと思います。長ければ訳すのに時間はかかりますけれど、仮に英語自体に分からない部分があったとしても、前後の内容から類推することが可能だからです。その逆、すなわち重要な情報を端的に表現しているため、非常に訳しにくい(ことがある)のが「図表」です。
金融翻訳では、図表がすべて翻訳対象とされることも多く、タイトルはもちろんのこと、短縮形だらけの凡例や単位に至るまで、短いわりに調査・訳出にかなりの時間がかかることがあります。
例えば以下の図のように、輸出額を示した図表のX軸に西暦、Y軸に100~900までの数字が切ってあり、その上に(bn)とあれば、調べるまでもなくbillionですから、話は簡単です。
しかし、まるで見たこともない単位で数値もヒントにならない…となれば、図表と本文からある程度類推しつつ、調査するしかありません。わずか2、3文字のアルファベットをいったいどう調査しろというの!! と、そんなことはさすがに何年かに一度しかないので、今回は基本を押さえておきましょう。
【本日の課題】
Chart 1. The Current U.S. Economic Expansion Now Exceeds That of the 1990s
●U.S. post-WWII economic expansion in months.
Jun 2009 to ??? (current expansion) 121
Mar 1991 to Feb 2001 120
Feb 1961 to Nov 1969 106
実際には、121など月数のところがカラフルな棒グラフになっています。非常に素直で、小躍りしたくなるような内容です(笑)。
メインタイトルは文章の形になっていますが、日本語では体言止めにするのが理想です。また、currentやnowなどをきちんと訳すと、タイトルとしては冗長になりますので、思いきって省いても良いでしょう。図表前後の文章で「足元の米国の景気拡大期間は今や史上最長」と説明しているのであれば、例えば「1990年代をも超えた米国の景気拡大」とするだけで十分に意図は伝わります。
U.S. post-WWII economic expansion in months.は、121や120などの数字の説明、つまり「凡例」ですので、ここは言い切り(体言止め)の形にしたいところです。内容的には「第二次世界大戦後の米国の景気拡大を月数で示したもの」ですが、いかにも冗長ですので、なんとか工夫しましょう。また「米国」という情報はメインタイトルに入っていますので、こちらにも入れるとむしろしつこくなるように思います。
【試訳】
図表1:米国の景気拡大は1990年代をも超えて史上最長へ
●第二次世界大戦後の景気拡大期の長さ(月数)
2009年6月~ ?(現在の拡大期) 121ヵ月
1991年3月~2001年2月 120ヵ月
1961年2月~1969年11月 106ヵ月
※タイトルの「史上最長へ」はどこにもありませんが、この図表で言っていることはまさにそれ。図表をしっかり見て、本文の内容と矛盾しないと確信が持てるならば、こうした補足を入れた方が分かりやすくなるケースは多々あります。原文にないものを入れるのが気になる方は、先程挙げた「1990年代をも超えた米国の景気拡大」ももちろんOK。
※ in monthをカッコに入れました。例えばin percentageなどでも、「パーセントで示した○○」などとするよりは、端的に「(%)」とした方が分かりやすくなります。もっと言えば、グラフの中で「121ヵ月」としましたので、「(月数)」自体、なくても良いかもしれません。図表全体として誤解を生じさせず、重要な情報をしっかり盛り込んだうえで、目に入る文字数は最小限となるようにしましょう。だらだらした説明など、誰も読みたくありませんから(笑)。