第37回 米国の利上げ④
こんにちは。年度が変わりましたが、先月までと同じ文章を見て行きましょう。今回で訳出は一応終了し、次回は番外編としますので、最後に全文を通して改めて熟読・訳出することをお勧めします。(課題は2018年9月の段階のもので、現在とは状況がかなり違います)
まずは前回までの内容のおさらいです。
1)連邦準備制度理事会(FRB)が2018年9月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利を引き上げた(利上げを実施した)。
2)FOMC後の声明でFRB議長は、「米国経済は予想より力強い」と指摘。
3)2019年3月までに利上げが3回実施される可能性が高い。
以上を踏まえて、今回の課題に取り組んでみましょう。少し長めです。
【本日の課題】
Much depends, of course, on the trajectory of inflation. If inflation remains around 2%, the Fed is likely to pause in mid-2019 and assess how the economy has responded to the rise in rates since late 2015. But in the post-meeting press conference on September 26, Powell took pains to point out that if inflation surprises to the upside in the months ahead, the central bank is poised to “move faster” on rates. With the U.S. labor market running at full steam, and wages undergoing a long-awaited acceleration, policymakers will be watching the employment data carefully for any signs that inflation will alter their plans.
◎trajectory of inflation
前回出てきたrate pathと似た表現です。「インフレ軌道」でもいいですし、今後、インフレ率がどのような推移をたどっていくか、ということが言い表せれば、どのような表現でも構いません。
◎Fed is likely to pause in mid-2019
目的語がありませんが、当然ながら「利上げ」のpauseです。日本語ではその旨を入れた方が良いでしょう。そのすぐ次に出てくるthe rise in ratesも利上げと解釈することは可能ですが、政策金利の引き上げに伴う「市場金利」の上昇に経済がどう反応したか、という意味も含めて、原文通り「金利の上昇」としても良いでしょう。
◎Powell took pains to point out that…..
この部分は、次回一回分を割いて、詳しく説明したいと思います。今回はご自分なりに訳してみてください。
◎U.S. labor market running at full steam
工場ならば「フル稼働」などにできますが、「labor marketがフル稼働」はおかしいですね。英語通りの「労働市場が全速力で走っている」も当然NG。ちょっと工夫した「完璧な状態にある」とか「絶好調である」は、ぎりぎり許される可能性はありますが、詳しい人から見れば「何も考えないで訳している」あるいは「本当に読み取れているとは言えない」と判断される可能性大です。従ってここで試されるのは、日々の経済動向をしっかり追っているか否か。
結論から言いますと、著者が意図しているのは、「米国の労働市場では、完全雇用が達成されている」ということ。「完全雇用」は、米国経済やFRBの動きを追っていれば、頻繁に出会う言葉です。それを知らなかった場合、ネット等で調査をして「ここは完全雇用という表現が適切」と確信できるまでに、相当な時間と労力が必要になります。よって、面倒くさくても眠くても、最低限の動きは追いましょう(笑)。
※完全雇用:働く意志と能力を持ち、かつ就職を望む者がほぼ全て雇用されている状態。FRBの二大使命(Dual mandate)は、「最大限の雇用(maximum employment)」つまり完全雇用の達成と「物価安定(stable prices)」です。
◎inflation will alter their plans
文脈から見て、筆者が言いたいのは。「インフレ率の動きによっては、FRBは従来言っていた金融引き締めの方法やペースを変えるかもしれない」ということ。金融政策は、一応の方向性を決めたとしても、経済状況によって柔軟に変更する必要があるため、「計画」というかっちりとした言葉は馴染みません。筆者は、「FRBの心積もり」「今後の政策の進め方」くらいの感じでplanを使っているのだと思います。
いつも言うことですが、planという一単語を適切な日本語に置き換えることを考えるより、文全体の意味を読者にしっかり伝えることを第一の目標としましょう。それが翻訳者の役割です。
それでは訳してみましょう。
【本日の課題】(再掲)
Much depends, of course, on the trajectory of inflation. If inflation remains around 2%, the Fed is likely to pause in mid-2019 and assess how the economy has responded to the rise in rates since late 2015. But in the post-meeting press conference on September 26, Powell took pains to point out that if inflation surprises to the upside in the months ahead, the central bank is poised to “move faster” on rates. With the U.S. labor market running at full steam, and wages undergoing a long-awaited acceleration, policymakers will be watching the employment data carefully for any signs that inflation will alter their plans.
【試訳】
もちろん、今後の推移はインフレ動向次第の面が強く、インフレ率が引き続き2%近辺で推移すれば、FRBは2019年半ばで利上げを停止し、米国経済が2015年末以降の金利上昇にいかに反応してきたかを評価するものと見られます。しかし9月26日に開催されたFOMC後の記者会見でパウエル議長は、今後数ヵ月間にインフレ率が予想外に上振れれば、FRBは金利に関して「これまでより迅速に動く」可能性がある、と止むを得ず指摘する形となりました。米国の労働市場が完全雇用状態にあり、長く待ち望まれてきた賃金の上昇も実現している今、政策当局は雇用指標を注意深く監視し、インフレ動向を受けて政策変更を余儀なくされるような兆候がないか、探ることになりそうです。
※Much depends, of course, on the trajectory of inflation.
muchだからといって、「多く」「大部分」などにこだわる必要はありません。特にここは段落冒頭ですので、突然「多くは」と始めると、「何の多く?」という疑問を感じる人がいるかもしれません。