第25回 金融翻訳者になるには(2)
こんにちは。今回も「金融翻訳者になり、その後もずっと金融翻訳者を名乗り続ける」ために必要なことを、わたし自身の経験もまじえてお話したいと思います。(「翻訳者になると決めてから専門を決めた」人のケースです)
先回は、よく言われる内容として
1)日本経済新聞や金融業界紙、関連の専門書を読む
2)証券外務員などの資格をとる
3)金融翻訳の講座を受ける
を挙げ、1)についてお話しました。きょうは2)についてです。
当然ながら、関連の資格をとるには時間とお金がかかりますけれども、それだけの価値はあるように思います。一番のメリットは、やはり「まとまった知識を体系的に身につけることができる」点でしょう。個人で様々な本を読むのももちろん悪くはないのですが、どうしても知識が偏ったり、断片的になってしまいます。
また、株価や金利がどうの、オプションの仕組みはどうのといった、いわゆるテクニカルな知識を学ぶことはもちろん重要ですが、それに加え、資格によっては事業者(証券・運用会社や銀行)側の目線を身につけることができるという点で、メリットが大きいように思います。例えば「自分で投資しているから専門知識には自信がある」というような人でも、それはあくまで「消費者目線」であって、翻訳を依頼してくる事業者の感覚とは異なるからです。
金融翻訳を依頼する事業者(ソースクライアント)は多岐にわたりますが、当然ながら、証券会社や銀行、資産運用会社など、日々金融市場と関わりを持ち、金融市場が事業の場となっている企業が大半を占めます。これらの企業は、機関投資家として金融商品を購入・運用する資産運用会社などの「バイサイド」と、逆に証券会社など、金融商品を主に機関投資家に売却する「セルサイド」に大きく分けられます。「バイサイド」は「投資家」ですので、「消費者」と通じる面はあるものの、「顧客の財産を預かって運用することを商売にしている」点で、一般投資家とは大きく異なります。
さて、金融と聞いて、具体的な資格として普通思い浮かぶのは、
・日商簿記
・ファイナンシャルプランナー
・証券外務員
・証券アナリスト
などでしょうか。
簿記は、「金融・証券」と重なる部分が多いとは言えないものの、企業の経営状況を判断するための企業財務の知識が得られますので、まったく無駄ではないかもしれません。当然ながら、株式や債券を扱うには、それを発行している企業の経営状態を知る必要があるからです。ただ、例えば1級合格のための勉強時間は平均500時間だそうで、簿記の知識が金融翻訳でどれほど使えるかを考えると、そこまで時間をかける価値はないかもしれません。
次にファイナンシャルプランナー(FP)。これもまったく無駄ではないと思いますが、FPはあくまでも個人や家庭を対象に財産の管理等について助言するための資格ですので、先程言ったような「事業者目線」を得ることは難しそうです。
その点、3番目の証券外務員は、あくまでも事業者目線であり、実際に金融商品を売買するための知識が得られるという点で、大いに有用と思います。一種と二種があり、二種では信用取引やデリバティブ取引など、リスクの高い商品が扱えないとのことなので、せっかくならば一種の勉強をすることをお勧めします。
証券外務員のテキストを見ると、実際に売買にタッチする人たちのための資格だからか、証券アナリストよりも法律・法令、取引所の定款・規則などの面を幅広く扱っている感じがします。金融でも法務に強い翻訳者を目指すならば、大いに役に立ちそうです。(これもわたし自身持っていませんので、ぼんやりとしたアドバイスで申し訳ありません)
最後に証券アナリスト。これはハードルがぐっと上がりまして、一次と二次があり、最終的に資格をとろうとすると最低2年間かかります。一次だけでもかなりのボリュームがあり、証券外務員よりははるかに濃い知識を身につけることができます。
証券アナリストは、実はわたし自身が持っておりますので、次回、少し詳しくお話したいと思います。
わたしの場合、最初は特に資格をとるつもりもなく、証券外務員のテキストをただ読んでいた時期がありました。しかし「試験を受ける」という目標がないと、問題を解くこともせず、文字をただ追うだけになります。そのくせ「分かったような気になる」ので、実に始末が悪いです(笑)。よって、非常に自分に厳しい人以外は、お金も時間もかかりますが、どの資格でも実際に試験を受け、できれば合格を目指すことをお勧めします。