TRANSLATION

第22回 機械的に訳すと意味不明!③

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。運用報告書が続いて、筆者も少し疲れてきましたので(笑)、今回は「機械的に訳すと意味不明」シリーズ第3弾をお届けします。

【課題】

A weakening Sterling periodically is a major concern.

短いのにかなりの難物です。まずもって問題はperiodically。そのほか、A weakening Sterlingも気になります。このように動きを示す表現や比較級が名詞句に入っていると、日本語ではなかなか処理が難しいですよね。しかし上下や増減、頻度を話題にすることが多い金融の世界では、この手の文章が頻出します。マネーが動き、市場が動き、世の中が動くことこそが金融の世界だからです。よってA weak Sterling is a concern.だったらどんなに良かったか、とグチを言うのはやめて、さっそく見て行きましょう。

と、せっかくですのでA weak Sterling is a concern.の訳を考えてみましょうか。

弱い英ポンド/英ポンドの弱さ/英ポンド安/安値圏で推移する英ポンド

懸念となっています/懸念されます/懸念されています/懸念材料です/懸念要因となっています。

こんな短い文章でも、ずいぶんとバリエーションを作れるものですね。主語の訳にどれを選ぶかは非常に微妙ですが、文脈によってどれか一つしか使えない場面もあると思います。よって慎重な検討が必要です。動詞部分も同様。

それでは改めまして課題を見て行きましょう。

A weakening Sterling periodically is a major concern.

まずA weakening Sterling。先程も使った「英ポンド安」は、「英ポンド相場が安値圏にあること」と「英ポンド相場が下落基調にあること」の両方を示すことができるように思いますので、weakening Sterlingの訳として使うことも可能です。

そのあたり、日本語は曖昧といえば曖昧ですので、十分な紙幅があって、しっかり動きを示したい場合は、上記の「下落基調にある英ポンド」とか、「英ポンドの弱含み」「弱含みで推移する英ポンド」「英ポンド安の動き」など、様々な表現が可能。(「英ポンド」だけでなく「英ポンド相場」とした方が、きちんとした感じになります)

concernの部分は、上記で挙げた「懸念されます」「懸念材料(要因)です」などでしょうか。「材料」「要因」は、金融らしい文章にするために非常に便利な言葉ですので、ぜひ使いこなせるようにしておきましょう。

例えば、The returns were boosted by sterling weakness.を「英ポンド安がリターンを押し上げました」ではなく、「英ポンド安がリターンを押し上げる要因となりました」とすると、ぐっと「それっぽく」なります。

さて、最後にperiodicallyです。

辞書を引きますと、第一義として「周期的な、定時の」などとありますが、為替市場の仕組みから言って、英ポンド安が測ったような間隔で起こるとは考えにくいので、「一定の時間ごと」を連想させる言葉はNG。辞書の第一義そのまま、あるいは字面の印象そのままの「機械的な訳」だなあ、と思われてしまいます。筆者は、「英ポンド安がなにかにつけて起こる」と言いたいのであって、例えば「1年ごとにきっちり起こる」と言いたいわけではありません。

このperiodicallyは、周期はともかくも「時おり起こる」の意味。「たびたび、しばしば」の語義を載せている辞書もあります。

なおperiodicallyはその位置から言って、文全体やa major concernではなく、A weakening Sterlingに係っていることが明らかですので、これも注意しましょう。

最後の難題。periodicallyとA weakening Sterlingをどのように日本語の主語としてまとめるか。考えてみてください。上記で候補として挙げた訳を単純に組み合わせるだけでは解決しませんので、検討が必要です。

【試訳】

・しばしば生じる英ポンド安が、大きな懸念材料となっています。

・繰り返し英ポンド安の動きが見られることから、これが大きな懸念材料として挙げられます。

2つめはちょっとしつこいかなという印象ですが、前後の文脈によっては使えると思います。「繰り返し」もちょっと踏み込んだ訳ですので、文脈によっては注意が必要です。

このように短い文章でも本当にいろいろとポイントがあるものですね。上記以外に、幾らでも訳のバリエーションは作ることができますので、限界にチャレンジしてみてください。

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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