第15回 債券ファンドのFlyer②
こんにちは。今回も、ハイ・イールド債ファンドのFlyerを取り上げます。前回は大体の構造と個々の単語についてお話ししましたが、訳出に挑戦していただけましたか? 至極単純な構造であり、しかも内容的に特に複雑ではないにも関わらず、「広告文」として実際に取り組んでみると、意外と訳しにくいことが実感できると思います。
A PROVEN APPROACH TO HIGH YIELD
The High Yield Fund combines more than 45 years of history in fundamental credit research with a flexible, opportunistic approach and rigorous risk management to deliver exceptional results in many market environments.
前回お話ししたように、本文は単純な構造で、The Fund combines history with approach and management to deliver results.が核となっています。まずは前回の検討を踏まえつつ、直訳に近い形で訳してみましょう。
ハイ・イールド債の実績あるアプローチ
ハイ・イールド債ファンドは、①多くの市場環境において、例外的な結果を提供するために、ファンダメンタル・クレジット・リサーチにおける45年以上の歴史と、②柔軟で最適な機会に乗じたアプローチおよび厳しいリスク管理を組み合わせます。
この文章は、実際のFlyerの一番上に目立つ形で入っていますので、投資家が一見して興味を惹かれるようにする必要があります。しかし上記の訳は、いかにも翻訳調ですし、何より問題なのは、「ただの説明文」になっていること。そこで、少しずつ手を入れていきます。
①多くの市場環境において、例外的な結果を提供する
→多様な市場環境において、卓越した成果を提供する
to deliver exceptional results in many market environmentsは、(極端な例外を除いて)どのような市場環境であろうと、非常に高いリターンを提供するよう努力しますよ、というニュアンス。「多くの環境」という表現は日本語として違和感があるので、避けた方が良さそうです。「例外的な」も、運用成果の大小を表現する言葉としては今一つですので、素直な言葉を選ぶと良いでしょう。この文脈では難しいかもしれませんが、自負のニュアンスが入るとさらにいい感じになると思います。
※ただし投資家に金融商品を紹介する文章で、「絶対」「確実」など、「必ず儲かる」ことを匂わせるような表現はご法度です。今回の課題でも、to以降を最後に訳す場合、うっかりすると「~なリターンを提供します」という断定で終わってしまう可能性がありますので、要注意です。
②柔軟で最適な機会に乗じたアプローチ
→柔軟で臨機応変なアプローチ
flexible, opportunistic approachのうち、flexible approachは「柔軟なアプローチ」でいいとして、opportunistic approachは難しいですね。前回ご説明したように、運用手法を語る場面でのopportunisticは、「目的を果たすため、有効な機会を捉えて臨機応変に/機動的に動く」というニュアンスがありますので、そのまま「臨機応変な/機動的なアプローチ」とするのが良さそうです。
とはいえ、わたしもまだopportunisticの最適な訳を探っている段階です。皆さんも他にぴったりな訳がないか、考えてみてください。
最後に文章全体を眺めて、単なる説明文ではなく、宣伝材料としてふさわしい日本語となっているかどうかを点検しましょう。あまりに過度な表現は法律上問題がありますが、投資家に「へえ~そうなんだ。買ってみようかな」と思わせるような文章を目指してみてください。
タイトルA PROVEN APPROACH TO HIGH YIELDを忘れていました。原文の構造を尊重しようとすると、最初の直訳「ハイ・イールド債の実績あるアプローチ」からあまり離れることができません。ここで言っているのは、「ハイ・イールド債の運用でかなりの実績を積んでおり、そのアプローチの有効性は証明済みである」ということなので、原文構造にこだわらず、その内容をなるべく盛り込みつつ、しかしタイトルらしくしてみましょう。
タイトルの訳に関してはクライアントによって様々な対応があり、文字通りの訳を好む会社もあれば、本文の内容を表わしてさえいれば、相当自由な訳を許してくれる会社もあります。以下の試訳は、「相当自由な訳」であることをお断りしておきます(笑)。
【試訳】
○○社の優れたハイ・イールド債運用アプローチ――その豊富な実績
「ハイ・イールド・ファンド」は、クレジット債券市場における弊社の45年以上に及ぶファンダメンタル・リサーチ、そして柔軟かつ機動的な運用アプローチと厳格なリスク管理手法を組み合わせ、多様な市場環境において卓越した成果を上げることを目標としています。