第13回 運用報告書②
こんにちは。先月に続き、今回も「運用報告書」を読んでいきたいと思います。前回は米国株式を中心に運用するファンドの「市場概況」部分を取り上げましたので、今回は「運用成績」を見てみましょう。
FUND REVIEW
①The Fund underperformed its benchmark for the quarter ended September 30, 2016. (…) ②The Fund’s weighting in domestic small-cap equities detracted from performance, as this category underperformed the Fund’s benchmark. (…) ③Within the Fund’s domestic small-cap equity strategy (…), security selection in the health care sector detracted most from performance. (…) ④Within this sector, the holdings in AAA, Inc., a biopharmaceutical company, contributed most.
①The Fund underperformed its benchmark for the quarter ended September 30, 2016.
underperformは「パフォーマンスが(~を)下回る」、反対はoutperformです。訳としては「パフォーマンス/成績/リターンが(~を)下回る」でも良いですし、そのまま「アンダーパフォームする」とすることもあります。
名詞形はunderperformance/outperformance(アンダーパフォーマンス/アウトパフォーマンス)です。
benchmarkは、ファンドや投資信託が運用の参考としている指標のこと。日本株式の運用時の指標としては、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)がよく用いられます。例えば当期のTOPIXの成績が+2%のところ、そのファンドの成績が+5%であったならoutperform、+1%であったならunderperformとなります。
訳としては、「ベンチマーク」「参考指標」など。ただし、国の「政策金利」や債券の「指標銘柄」にもbenchmarkが使われることがありますので、要注意です。例えば前回第12回の課題で
The U.S. Federal Reserve (Fed) held its benchmark interest rate unchanged for the third consecutive quarter
という部分がありましたが、このbenchmark interest rateは米国の主要政策金利である「フェデラル・ファンド(FF)金利」を指しています。
the quarter ended September 30は「9月30日で終わる四半期」ですから、7~9月のこと。今回は運用報告書ですので、前回説明した通り、「当期」としてもいいですし、「7-9月期」とすることもあります。場合によっては「第○四半期」も可ですが、決算時期によって○の数字が変わりますので要注意です。
【①試訳】
●2016年7-9月期、当ファンドのパフォーマンスはベンチマークをアンダーパ
フォームしました。
●当期、当ファンドの運用成績は参考指標を下回りました。
②The Fund’s weighting in domestic small-cap equities detracted from performance.
②以降は、ファンドの成績にマイナスの影響を及ぼした要因を説明しています。
まず、small-cap equitiesのcapはmarket capitalization(時価総額)のこと。「時価総額」は上場企業の企業価値を示す指標の一つで、「株価×発行済株式数」で算出されます。
例えば日本で最も時価総額の大きいトヨタ自動車の発行済株式数は3,262,997,492株だそうなので、2月18日の株価(終値)で計算しますと、
6,400円×3,262,997,492株=20,883,183,948,800円(約21兆円)
となります。すごいですね。
small-cap equities(小型株)は時価総額が小さめの銘柄ということ。他にもlarge-cap equities(大型株)、mid-cap equities(中型株)などがあります。トヨタは間違いなく大型株です。
大型株は発行株式数が多いため、流動性が高く(つまり売りたい/買いたい時に売りやすい/買いやすい)、株価が安定しやすいという特徴があります。逆に小型株は株価が変動しやすいため、運用次第では高いリターンにつなげることができる反面、損失も大きくなる傾向があります。
ファンドや投資信託は、投資対象が株式か債券かなど資産クラス(asset class)による分類、欧州かアジアかなど地域(region)による分類、先進国か新興国かなど国(country)による分類のほか、大型株、小型株といった株式の特徴に着目して投資対象を選定しているケースもあります。株式の特徴では、今後の成長が見込める「グロース株(成長株)」、株価が本来の価値より割安なまま放置されている「バリュー株(割安株)」などの分け方もあります。
課題文は米国株式のファンドですので、domesticは「米国の」、よってdomestic small-cap equitiesは「米国小型株」となります。
The Fund’s weighting in domestic small-cap equities(米国小型株へのファンドの重みづけ)は、米国小型株に一定のウェイトを置いている、資金を配分している、ということ。資金の配分先という意味では「組み入れ」「ポジション」がよく使われます。
まとめると、ファンドが米国小型株に資金配分していた/~株を組み入れていた/~株のポジションを保有していたことが原因で、ファンド全体のパフォーマンスが損なわれてしまった、という意味になります。
【②試訳】
●米国小型株のポジションが、当ファンドのパフォーマンスを悪化させる要因と
なりました。
●米国小型株の組み入れが、当ファンドのパフォーマンスにマイナスに作用しま
した。
③Within the Fund’s domestic small-cap equity strategy, security selection in the health care sector detracted most from performance.
security selectionは「銘柄選択」「銘柄選定」。先程説明したような、資産クラスや国・地域などによる選定よりもさらに踏み込んで、企業の個別材料(業績や経営方針など)から判断して銘柄(企業)を選ぶ手法を言います。
この文章は、米国小型株戦略の中でも、特にヘルスケア・セクターからの銘柄の選び方が今一つで、ファンドのパフォーマンスを最も損なった、つまり他にもマイナスに作用した要因はあるが、これが最も大きな原因であった、ということです。
「セクター」は、主に業種の意味で使用されますが、欧州企業全体を指して「欧州セクター」、輸出企業全体を指して「輸出セクター」、景気循環に敏感に反応する銘柄全体を指して「景気循環株セクター」などの表現もあります。
【③試訳】
当ファンドの米国小型株戦略の中では、ヘルスケア・セクターの銘柄選択が最も大きくマイナスに寄与しました。
④Within this sector, the holdings in AAA, Inc., a biopharmaceutical company, contributed most.
holdingsは、そのまま「保有」とすることもありますし、「組み入れ」「ポジション」などでも可。文脈によっては訳さないこともあります。
この原文ではAAA, Inc.にbiopharmaceutical companyという補足説明がきちんとついていますが、ファンドによっては(日本で)無名の企業が何の補足もなく出てくることも少なくありません。そのためクライアントの指示によっては、翻訳者側で調査して説明を追加することもあります。
【④試訳】
●同セクターの中では、バイオ医薬品メーカーのAAA社が最大の寄与銘柄となり
ました。
●ヘルスケア・セクターでは、バイオ医薬品関連のAAA, Inc.がパフォーマンス
に最も大きくプラス寄与しました。
※ポートフォリオ(資産の組み合わせ)の構築には様々な手法があります。よく言われるのは「トップダウン・アプローチ/ボトムアップ・アプローチ」。資産運用会社の運用方針などで頻繁に目にする言葉です。興味のある方は調べてみてください。