第33回 柔らかい文章を訳す
今回は今年最後ということで、少し遊んでみましょう。唐突ですが、10月初めにツイッター社本体の公式アカウント”Twitter”から発信されたツイートを訳してみたいと思います。
金融・ビジネス翻訳では、文学的だったり、ひどく抽象的だったり、ある特定の政治家の政策をあからさまに攻撃していたり(そのため日本の公共の場でさらす文書としては馴染まない)、奇をてらいすぎていたり・・・といった文章にも時にお目にかかります。
特にマーケティングやPR等のビジネス翻訳では、コピーライターに頼んでよ、と言いたくなるような文章もありますし、金融翻訳でも、レポート等のタイトルが凝りすぎていて、長々と背景説明をしない限りまったく意味が通じないものもあります。その場合、翻訳会社さんと相談のうえ、本文の内容をざっくり網羅した(つまり本来のタイトルの役割を果たす)、実につまらないタイトルに変更したりします。もちろん、それは最後の手段ですが。
というわけで、金融・ビジネス翻訳者を目指している方には、堅い文章ばかりでなく、たまには柔らかい文章を自由な発想で訳してみることをお勧めします。
さて、Twitter社のツイートは以下です。訳例を見る前に、是非一度ご自分で訳してみてくださいね。一つと言わず、二つでも三つでも、できる限りチャレンジ!です。
You’re stranded on a desert island. Your phone has charge for just one final Tweet. Go!
- あなたは無人島にひとり取り残されています。携帯電話の電池はあとツイート1回分しかありません。最後のツイートを書こう!
- 無人島でひとり身動きがとれなくなってしまいました。あとツイート1回でスマホの電池がなくなるとしたら、何を書きますか?
- あなたは無人島でひとりぼっち。あとツイート1回分でスマホの電池を使いきってしまいそう。あと1回だけツイートできるとしたら?
- あなたは無人島に流れ着きました。スマホはあるけど、もうバッテリーが切れそうです。最後のツイート、その内容は?
- 無人島で孤立無援。電池が切れそうなスマホ。あなたの最後のツイートは?
うーん、このあたりで種切れになってしまいました。ひとりぼっち/孤立無縁/スマホなんてどこにも書いてないじゃんというツッコミは、こういう場合、なしです。以下の直訳
あなたは無人島に取り残されています。あなたの電話は、最後のわずか一回のツイートのための充電しかありません。ゴー!
を読めば、誰だって一人ぼっちで島に取り残されているところを想像します。そして携帯電話と言えば今やスマホ。それを言葉にしただけのことです。
それにしてもGo! が難題ですね。この部分だけを日本語にするのは非常に難しい、というか、どう訳しても翻訳調になるので、前の部分と合わせて疑問形にするのが自然なように思います。
携帯電話とスマホ、電池とバッテリーの組み合わせも悩むところ。こういった文章では、ぽんぽんとリズミカルに流れる方が良いので、短い方のスマホの電池の組み合わせが一番良さそうです。携帯電話のバッテリーでは重い感じがします。
あと、ツイートする/つぶやくという表現も若干重いというか、いかにも翻訳という感が拭えないせいか、これまたいまひとつ。しかしこの場合、どこかにツイート/ツイッター、あるいはつぶやく/つぶやきという言葉を入れないと話が通じませんから、全体のリズムを壊さずにいかにこれらの言葉を組み込むかが腕の見せ所です。
それにしてもこのツイート、ある有名人のリツイートで知ったのですが、日本でも流れたのでしょうか?
最後に、無人島で携帯が通じるのかい!というツッコミは、どうぞツイッター社さんへどうぞ(笑)。それでは皆様、良いお年をお迎えください。