クライアントインタビュー Vol.1 ディアンドデパートメント株式会社 編集長 神藤秀人様
【プロフィール】
ディアンドデパートメント株式会社
D&DEPARTMENT PROJECT
編集長
神藤 秀人 様
【クライアントご紹介】
独自のポリシーと目線で発刊されている観光ガイドブック『d design travel』の英語訳をテンナインでは毎号担当しています。この度、『d design travel』の編集長・神藤秀人様をお迎えして、テンナインの翻訳サービスについての印象を、翻訳部コーディネーターの本多が伺いました。
『d design travel』とは
神藤:私たちの会社は2000年にデザイナーのナガオカケンメイによって創設され、「ロングライフデザイン」をテーマに、店舗運営からスタートしました。現在は東京やソウルなど国内外に11店舗を展開する他、デザインコンサルティングを行うD&DESIGN、47都道府県の個性をまとめた観光ガイド『d design travel』を発行するなど活動を広げています。
1960年代の日本は、デザイナーズ家具や家電製品が大量生産される時代でした。消費者は一つの商品を長く愛用するというよりも、新しいものができれば古いものは廃棄され、すぐに買い替えられる大量消費社会でした。
ご存じのように今でも十分価値がある商品がリサイクルショップに流れています。本当の価値を理解されないままたくさんの物が取引されているんです。私たちの会社では、商品の価値をきちんと顧客に再提案していこうというのがコンセプトです。
私たちは物の本当の価値を知ってもらうことが何より大切だと考えています。実際に価値のあると思う家具や商品をカフェに配置して、お客様に体感してもらいたいと考えました。カフェは東京からスタートし、北海道や大阪に展開していきました。北海道店を立ち上げる際には、新たな気づきもありました。北海道はナガオカが住んでいた土地でもありますが、郷土料理や伝統工芸は昔から受け継がれているというだけではなく、そこには、若い人にも伝承していく「デザイン」という存在がありました。これからの日本には人気のある地域の観光ガイドブックだけでなく、その土地に長く続く「個性」や「らしさ」をデザイン的観点から選び出して、47都道府県の観光ガイドを作ろう……そうした発想から2009年に創刊したのが『d design travel』です。
このプロジェクトは10年以上前から取り組んでおり、今回の神奈川県は32県目になります。元々デザインにはいろいろな基準があり、当然人の好みもそれぞれです。代表のナガオカがいいデザインの基準としたのは「モノの年齢」でした。長く愛用される、つまり普遍的なデザインであるということ。それが私たちが提唱する「ロングライフデザイン」です。
本多:御社の提案される家具は伝統や歴史を感じることができます。店舗にてその県特有のお土産などを実際に購入できるシステムも素晴らしいと思いました。
ライター活動をするきっかけ
本多:神藤さんご自身はライター活動の前はどのようなキャリアを積まれたのでしょうか?
神藤:ディアンドデパートメントに入社する前は、トラックなど商用車のデザインの仕事に就いていました。しかし2011年震災の時、物資を届けるのにトラックは必需品でしたが、その中で細かなデザインの仕事を続けていいのだろうかという心の葛藤がありました。「今あるものを大切に使っていくこと」の価値に気づいたんでしょうね。
その頃、ナガオカの本を何冊か読んでいるうちに、この会社の仕事に携わりたいと思い30代前半に前職を退職しました。その足で『d design travel』の「静岡号」を手に、実際に静岡まで旅に出ました(笑)。
本多:行動的ですね。デザインはそれだけ人を動かす力があるというのを感じます。
ライターの仕事について
神藤:ライターの仕事は未経験でしたが、入社してから過去の記事を参考に自分自身で勉強しました。代表が書く文章は他の記事と全く違うので、一度どのように書いているのか聞いたことがあります。答えはFacebook、TwitterなどのSNSに投稿するのと同じだと言われました。
嫌いな人に向けて文章は書けないけど、好きな人に対しては思いを伝える文章を書くことができますよね。本当に好きなものであれば誰でも記事は書けるんです。上手、下手ではなく、自分の思いを文章に乗せて伝えるだけです。
例えば自分が好きな料理の紹介文だったらスラスラ書くことができると思いますが、嫌いな料理の紹介文を書くのは大変です。私たちの編集方針には『感動しないものは、取り上げない』というルールがあるんです。
本多:私たちも「翻訳」という言葉を扱うサービスを提供していますので、元の文章に込められたメッセージを大切にしています。翻訳者やチェッカーとチームを組んで試行錯誤を繰り返し、翻訳を完成させます。「ただ縦のものを横に翻訳するだけではなく、どうすれば相手の心に届く言葉を生み出すことができるのか」ということを常々考えています。今おしゃっていただいた「書くことに感動や伝えたいメッセージがあるかどうか」という視点は大事だと思いました。
取材に関する困難
本多:住み込み取材もされるとお伺いしました。私たちが想像できない大変なこともあったのではないでしょうか?
神藤:例えば2か月間住み込み取材をするとします。まず衣食住の漏れがないように意識しています。過去に宿の予約を取り忘れて大変な経験をしたこともありました。他は現地で洗濯もしますし、取材でよく歩くので、スニーカーは必ず準備しますね。
つい先日横浜の中華街へ取材にいきました。ある程度事前に準備して20か所近くのお店を取材しました。中華はお持ち帰りができるので助かりましたが、香川県のうどんの取材はその場で全部食べないといけないので過酷でした。
『d design travel』に英訳を掲載しようとした経緯
本多:『d design travel』にはすべて英訳を付けていますが、その経緯を教えてください。
神藤:当初のきっかけはわかりませんが、今僕が思う一番の理由は英語を入れると単純に「かっこいい」からだと思います。そして全国にショップを展開するにつれ、グローバルなお客さんが増えていきました。これからは日本の情報をもっと海外に発信していきたいと考えています。英訳のおかげで、実は海外にもたくさんの読者がいるんです。ロサンゼルスで展示会に出展した時は「全冊持っているよ!」と声をかけてくれた外国人のファンの方もいました。世界中を探しても、すべての地域を照らしたガイドブックは私たちの本だけだと自負しています。
本多:私自身も英語の勉強をした経緯は「英語=かっこいい」という憧れでした。そして今はテンナインに入社して言葉を扱う仕事に誇りを持っています。
テンナインを選んだきっかけ
本多:長年弊社に翻訳のご依頼をいただいておりますが、そのきっかけを教えてください。
神藤:社内で翻訳のスケジュールが間に合わずどうしようかと考えていた時に、美術出版の編集者から御社をご紹介いただきました。その後は長く担当していただき、感謝しています。今では安心してお任せしています。
例えば「ちょっとニュアンスが違う」という訳文も、我々では修正している時間がありません。また英語のプロではないのでこちらで訂正するのは難しいですし、出版の期限を遅らせることもできません。御社には長年担当していただいているお陰で、正確な訳だけでなく、ニュアンスまで把握した訳文を上げていただいています。ずっと一緒にプロジェクトへ携わっていただいた経験があるからこそ、御社とチームで仕事ができていると感じています。
記憶に残る英訳文
本多:これまでに神藤さんの中で記憶に残っている英訳はありますか?
神藤:僕は物作りのマップの配役がどうやって翻訳されるのか、実は毎回密かに楽しみにしているんです。難しいニュアンスの日本語が、こうやって英語になるんだと、いつも感心しています。
本多:原文が話し言葉やキャッチコピーのような文章の場合は、ただ直訳するのではなく、言葉に込められたメッセージまで伝わる訳になるように心がけています。
神藤:専門的な内容も多いので、私たちが書いた日本語の真意がちゃんと読者に伝わるのだろうかと不安になることもあります。仕上がった英訳を拝見すると「ちゃんと伝わっている」と安心できます。ライターが執筆した日本語の記事は、最初に校閲者が目を通します。校閲者もライター同様文章のプロなので、その時点である程度伝わる文章になっています。そのあとインタビュー担当者が専門的な内容を確認します。御社に翻訳のご依頼を依頼するのはその後です。つまり御社が最初に一般的な読者の目で文章を読んでいただくことになります。本多さんが分かるなら、読者も分かるのだろうと思っています。
難しいニュアンスやメッセージもきちんと翻訳して頂いているので、長くお付き合いさせていただいております。安心してご依頼できるのが、御社を選ぶ1番の理由です。
チェジュ島のプロジェクトについて
本多:次のプロジェクトについて教えてください。
神藤:次は韓国のチェジュ島のガイドブックを作成します。チェジュ島は、主にお茶やミカンが生産されていますが、ミカンは韓国で唯一の生産地になります。元は九州の福岡から輸入されたそうです。日本と意外とかかわりのある場所なんです。
本多:そうなんですね。実は子供のころ母親が「冬のソナタ」が好きで、よく韓国ドラマを見ていました。私もその影響で韓国の文化やタレントに興味を持ち、韓国語も勉強しました。
神藤:私も韓国語を勉強したいと思っているところなんです。
本多:今から楽しみなプロジェクトですね。
神藤:チェジュ島の記事は、最初に現地ライターが韓国語で執筆します。いったん日本語に翻訳する必要がありますので、韓国語から日本語への翻訳もぜひ御社にご相談させてください。
本多:はい、ぜひお任せください!本日はどうもありがとうございました。