AI翻訳に対抗するために
テンナイン・コミュニケーションの初めての試みである『オリジナル商品開発プロジェクト』の一環として、テンナイン・コミュニケーション翻訳部が『オリジナル香水』を販売いたします。
なぜ翻訳会社が香水をプロデュースするのか?プロジェクトの背景にある想いを計4回のブログで解説していきます。
第1回目の今回はプロジェクトの最大の狙いである「AI翻訳への対抗」についてお話します。
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近年、AIとテクノロジーはますます進化を遂げ、人力で行う作業の代替策として、多くの分野で社会に貢献しています。翻訳の業界では特にその流れが顕著です。大量の文章を瞬時に、かつ高い精度で翻訳できるAI翻訳が台頭してきています。
AI翻訳は今後もさらに進化を続け、精度もますます向上していくでしょう。
翻訳エージェントにとって最悪の結末は『AIとAI翻訳がすべての作業をこなし、人間のコーディネーターや翻訳者はもう必要ない』という社会です。こうならないよう、私たちは「AI翻訳ではできない、人間が生み出す価値」を見つけなければいけません。
そして私たちは一つのヒントを見つけました。
それは「ノイズ」です。
「ノイズ」にはさまざまな定義ができると思いますが、私たちにとっては『予定調和でない、突拍子もない、偶然から生まれた、気まぐれな人間の行動や感情』だと言えます。
例えば、音楽であれば「AIが作曲・演奏する楽曲」と、「目の前で聴く人間による楽器の生演奏」の違い。前者は一回のミスもなく楽譜通りに完璧に演奏するでしょう。対して後者は、演奏者のその日の体調、緊張具合、熟練度、楽器を弾く手の汗のかき具合に至るまで、さまざまな要因によってパフォーマンスが毎回異なります。季節・客層・会場の雰囲気に応じて、その場の一瞬のひらめきで意図的に音程や歌詞を変えるかもしれません。
料理であれば「その家に代々伝わっている隠し味」が「ノイズ」だと思います。「え?そんなものを入れるの?」と周囲に驚かれる、ある人がひらめいて行った気まぐれな行動が、多くの人に愛される家庭の味となるのではないでしょうか。
翻訳でも人間だからこそ起こせる「ノイズ」があると思います。
「原文ではこう書いてあるけど、こういう解釈もできるのでは?」
「一般的にはこの単語はこの訳語が通例だけど、私はこの単語を使いたい」
「原文には書かれていないけれど、この言葉を補えば、もっと分かりやすくなるだろう」
このような「原文に書いてあることを一語一句、別の言語に置き換えるだけ」ではない、予定調和から外れた翻訳が、翻訳者が起こす「ノイズ」であり、それがその翻訳者にしか生み出せない文章となり、読み手の心に届くのではないでしょうか。
では翻訳エージェントが起こすことができる「ノイズ」とは何なのか?
近い将来誕生するであろう『AI翻訳エージェント』ではできないこととは何なのか?
それが今回の「オリジナル香水プロジェクト」です。
「翻訳グランプリの課題であった『架空の香水』を本当に販売したら面白いかもしれない」
たったそれだけの偶然の思いつきが、今回のプロジェクトの原動力です。
「え?なんで翻訳会社が香水を作るの?」という周囲の反応こそが、このプロジェクトの大きな目的の一つであり、この突拍子もない発想と行動こそが絶対にAIではたどり着けない選択だと思っています。
私たちはAI翻訳に対抗するために、「ノイズ」を起こします。