資料は通訳者の敵か味方か?
通訳者と資料の関係は時には味方、時には敵のような微妙な関係にあると思います。通訳者というのはわがままで、エージェントの担当者には申し訳ないですが、資料が多すぎても多すぎると文句を言い、少なすぎても情報がなさすぎと文句を言うことが多いように思います。
資料が大量に来る場合は、“とりあえず”的な参考資料が多く、そういう資料に限って前日とか直前にどさっと宅急便で届き、どこまでが参考で、どこまでが今回の仕事のものかを振り分けていくだけでもかなり時間を取られ、日付が変わってからやっと読み始め、寝不足のまま現場へということも珍しくありません。
最近では企業内で英語のできる方がプレゼンを翻訳したものも一緒に送られてくることが増えてきました。社内用語や業界用語を両言語で確認できるので非常に助かります。ただ翻訳の質があまりよくないケースが問題になることもあります。
事前にプレゼンを確認でき、訳を訂正できる場合は直前に会場で訂正してもらうこともあります。当日初めてプレゼン資料(パワーポイント)を見ながら通訳をする場合、聴衆は英語がわからず通訳の日本語とプロジェクターで映し出される日本語を見ながらスピーカーの話を追っていくわけですが、スピーカーが言っていることとパワーポイントで書いていることが違っている場合、通訳が間違っていると思われるのではとひやひやすることがあります。
先日、“プレゼンを効果的に行う方法”という内容の通訳をした時のことです。そのとき、オリジナルの英語版の中の”The art of presentation…”という表現が、日本語の資料では“プレゼンの芸術”となっており(正しくは“プレゼンの技術”)、これはさすがに日本語で見ても変だなと思える間違いなので、通訳が間違っているとは思われないと思いますが、紛らわしい間違いもあります。同じトレーニングで、プレゼンで避けるべきポイントの説明の中で使われていた”Avoid passive voice”という表現が“消極的な声は避ける“と訳されていました。”よわよわしい声ではなく堂々と話せ!“なのかと日本語だけみると思えますが、正しくは”受動態は避けた方がいい“という意味です。さすがにここを訳した時は、”受動態なんて書いてないじゃないか・・・“という表情で話を聞いている方もいて、“プレゼンの日本語が間違ってるのに・・・!と説明したいところでしたが、それもできず淡々と訳していきました。
本来、通訳者を助けてくれるはずの資料が場合によっては、貴重な睡眠時間を奪ったり、会場から“この通訳間違ってるんじゃない?”という厳しい視線の中通訳をするはめになったりと、足をひっぱる存在になることもあります。
とはいえ、もちろん資料が無いよりはあった方がいいには決まっていますので、これからもエージェントの皆さん資料よろしくお願いします!
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