INTERPRETATION

聞く技術

上谷覚志

やりなおし!英語道場

こんにちは。今回のコラムで100回目を迎えます。最近では入稿のペースが遅く、本当は夏くらいには100回目の原稿を書くことを目標にしていたのですが、秋になりようやく100回を迎えることができました。途中何度か原稿が遅れてしまった時も、109の皆さんや私のスタッフに案をもらいながら、何とか今日100回という区切りを迎えることができました。これまでこの英語道場を支えてくださった皆様にこの場を借りて“ありがとう!”を伝えたいと思います。また最近では、お会いする方に”コラム読んでいます“と言って頂いたり、国内外の方からもメールを頂いたりと、読んで頂いている方からの反応を感じる機会が増えたことも100回まで書き続けられた1つの要因です。これまで読んで頂いた皆様、本当にありがとうございました。これからも私が日々、通訳や教えるという仕事や人との出会いで感じたことを素直に書いていけたらと思います。

さて、そろそろ通訳学校の秋の講座が始まります。AOCでも通訳訓練のコースが来週末から始まるため、現在、体験講座や1対1での体験レッスンを行っています。他の学校で通訳訓練を受けた方も多くお越しになりますが、通訳訓練を受けたことがないという方もお越しになることもあります。

通常、体験講座では、サイトラと英日、日英の逐次を中心に説明をしていきます。サイトラは初心者の方でもある程度こういうものかという感覚はつかんでもらえるのですが、逐次となるとなかなかそういうわけにはいきません。初めての方は特にそうですが、“通訳とは自分が今まで経験したことのない全く新しいスキルだ”と感じ、どうしていいのかわからなくなるようです。

確かに“訳す”という部分は、新しいスキルかもしれませんが、その前段にあるプロセスつまり情報を理解することは何も目新しいスキルではありません。通訳プロセスの中で重要なこの“理解する”というプロセスですが、通常のコミュニケーションでの“理解する”とはかなり違います。普段のコミュニケーションでは、自分にとって必要な情報かどうか、好きか嫌いかといった“自分”をベースにして主観的に情報を処理していきます。聞いたことがあまりわからなくても、自分にとって必要ないと判断できれば、その部分は無視してもいいわけです。もっと言うと、わからなかったとしても、話し手のせいや体調のせいにしてしまってもいいわけです。通訳訓練を始めると聞いたことを過不足なく客観的に捉えるということがいかに難しく、負担の大きな作業かということ気付くとともに、いかに自分がこれまで周りの情報を主観というフィルターにかけて、適当に処理してきたのかがわかります。

情報を過不足なく捉えるための手段として、通訳訓練ではメモ取りの練習も行います。授業の中で、基本的なメモの取り方は説明しますが、最終的にはその方独自のメモ取りのスタイルに落ち着いていきます。通訳で一緒に組んだ人のメモを見せてもらっても、私がメモに書く量は多くありませんし、かなりのなぐり書きです。本当はもう少し多く、しかもきれいに書きたいのですが、通訳をしている時は聞くことに全神経を集中させ、メモを取ること自体にはほとんど神経を使いません。ロジックを追い、伝える内容を自分で納得・確認し、一気に訳していくので、メモをどう取るのかとか、何を書くのかを考える時間は通常、自分にはありません。

メモ取りについては以前もコラムで書きましたが、メモはあくまでも補助であり、通訳プロセスではありません。それよりもいかに理解力を上げるかの練習をした方がはるかに通訳力を上げることができますし、そうなれば自然とメモが取れないと言うことはなくなるはずです。この秋から通訳訓練を始める方、またはやり直したい方は、まずは日本語でいいので、ある程度まとまったものを聞いて、客観的に情報を過不足なく捉えられるかどうかの練習をしてみてください。通常の“理解する”を通訳者の“理解する”に変えることができれば、通訳の質が格段に上がります。頑張りましょう!

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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