INTERPRETATION

最初の第一歩

上谷覚志

やりなおし!英語道場

皆さんの中にはまだ通訳の勉強をされている方も多くいらっしゃると思います。他の通訳者の話を聞くと、自分にチャンスが与えられれば、自分だって・・・と思ったことがある方もいるのではないでしょうか?駆け出しの頃には、私も同じようなことを考えたことがありました。経験者でないと仕事をもらうのは難しいと言われ、仕事をもらえないのにどうやって経験を積めばいいんだろうと思ったこともありました。特に今年は去年よりも仕事の量が一時減ったこともあり、そういう気持ちを持った方も少なくなかったのではないでしょうか?

実績があまりない場合には、ボランティアでもいいですし、私も駆け出しの頃やりましたが、通訳とはちょっと違うかなと思うような英語関係の仕事でもどんどん引き受けていくことで、ネットワークが広がってきます。自分が動けば、周りも変わってきます。知らない人からAさんから紹介されて連絡しましたというような形で仕事がくることも珍しいことではありません。最初は大変ですが、とにかくいろいろなところに顔を出し、通訳していますと周囲に売り込むことから始めてはいかがでしょうか?私の最初の仕事も意外なところからの紹介でした。

自分の生徒さんが社内通訳に応募する時に、経歴書をチェックすることがあるのですが、仕事を取りたいのか、自分は経験がありませんとアピールしたいのかどっちなんだろうと思うような経歴書に出会うことがあります。具体的に話を聞くと、いろいろとアピールできるポイントが出てきて、最初の経歴書と全く違うものに変わることも珍しくありません。こんなことわざわざ経歴書に書いてもと思うことでも、書き方を少し変えるとアピールポイントに変わるものです。謙虚さはもちろん美徳でありますが、相手がどういう人材を求めているのかを意識して、それに応えるような書き方をする必要があります。

それから通訳学校に行っている人で、自分はまだ〜クラスだから仕事はまだ早いとおっしゃる方もかなりいます。特に学校に長くいる人はそういう傾向が強いような気がします。最初の仕事がもらえないのは、自分の実力がないからで、〜クラスに進級しないとダメだと強く信じているのです。本当にそうでしょうか?マーケットにはさまざまな種類の通訳の仕事がありますので、今の自分のレベルでもできる仕事は見つかるはずです。最初は“通訳”とは言えなくても、英語が使えビジネスが学べる仕事から始めてもいいでしょうし、簡単な翻訳から入るという手もあります。大切なのはそういう仕事を早く始めて、経歴書にかけるような実績を実力と同時に積み上げていくことです。いきなり自分のやりたい通訳の仕事はできないかもしれませんが、“まず始めてみる“ことは通訳学校で勉強するよりも大切だと思います。通訳を目指す限り勉強は続きますから、仕事を始めたからと言って通訳学校をやめる必要はありません。むしろ働き始めて初めて通訳訓練の意味や価値がわかることもよくあります。

どんな仕事でも必ず学ぶことがあります。仕事から学ぶこともありますし、人から学ぶこともあります。こんな仕事なんてやる価値ないと思わず、進んで引き受ける気持ちが次につながり経験を積むきっかけになっていくと思います。先輩通訳を見ていても、時間が合えば基本的にはどんな仕事でも引き受けるという方が案外いらっしゃいます。そういう姿を見習い私も仕事を選り好みせず、できる仕事であれば引き受けるようにしています。

最初の仕事のきっかけをつかむのは容易くはありませんが、今活躍をしている通訳の多くも同じような悩みを駆け出しの頃に持っていたはずです。大きなきっかけをつかむための小さな実績を積んでいってください。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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