ジェネラリスト通訳とスペシャリスト通訳
通訳者は一般的には語学のスペシャリスト、特にコミュニケーションのスペシャリストであると考えられています。英語が好きな人、得意な人が語学で食っていくと考えたときに、通訳を仕事に選ぶ方が多いのもわかります。勉強して通訳になったとたん、周りから英語ができる(いわゆるペラペラ)と自動的に見なされ、この人に聞けば何でも教えてもらえるという扱いを受けるようになります。
駆け出し通訳のころは、こういうことがプレッシャーに感じたものです。通訳になったといっても、まだまだ勉強中の身。英語の雑誌を読んでもすんなりと日本語のように理解できるわけでもないし、映画だって全てわかるわけではないし、“通訳やっています”と言う時の周りの期待値がぐっと上がるあの感じが嫌で、最初はなかなか“通訳です”と言えなかったことを覚えています。
しかし最近は、通訳という仕事自体、昔ほどスペシャリストという意味合いを持たなくなっているような気がします。例えば日本語の比較的上手な外国人に“たまに私も会社で通訳します”と言われて、“どんな通訳するんだろう???”と思いつつも、今の流れとして通訳という仕事が大衆化しているのだなぁと感じます。求人を見ていても社内通訳・翻訳募集、TOEIC650点以上といった広告も珍しくありません。
昔は通訳学校に何年も通って、たくさんの宿題をこなして、先生に怒られて残った一部の人がデビューのチャンスを与えられ、通訳になるというパターンが多く、そういう意味で大手の通訳学校に入らないと通訳になれないという時代がありました。最近はどうもそうではなく、先に通訳デビューしてしまい、後から学校に通い始める方が増えているような気がします。昔だったら通訳コースに入れるか入れないかくらいの方でも、職場で通訳やっていますという方もいて、それが果たしていいことなのかどうか考えてしまうことがあります。
もちろん早く通訳になれれば、学習への投資コストも少なくて済みますし、現場を早く体験することで通訳そのものに慣れることは可能です。ただ通訳は慣れだけでやっていけるものではなく、やはりスキルを支える語学力や知識は不可欠です。社内で通訳をする場合には、慣れもかなり助けになりますが、それだけでは十分ではありません。
ただ、どこまでスペシャリストにこだわるかによっては、そこまでしなくてもいいのかもしれません。他の業務をやりながら通訳もたまにやるというジェネラリスト通訳もこれからは増えていくでしょう。今までのように“通訳”という言葉の中にスペシャリストたるものどんなことでも対応できないといけないという気負いはなく、“ちょっと通訳もやっています”という風に通訳が単なるサポート業務の一部で、“だいたい意味がわかれば良し”という捉えられ方がされるケースも今後は増えてくるでしょう。
ジェネラリスト通訳が増えてくる中で、スペシャリスト通訳として生計を立てるのであれば、これまで以上に研鑽してバリューを提供していかないといけない時代になってきているなと感じます。
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