通訳者と柔軟性
通訳という仕事はやってみるとサプライズ連続で、語学スペシャリストだけではなく、アドリブスペシャリストでないと務まらない仕事だとわかります。語学的にも高度なレベルが要求され、専門性に関しても(一夜漬けではあるものの)与えられた時間の中でその分野の知識を理解し現場に入りますが、その後のパフォーマンスは現場の想定外の要求にいかに柔軟に対応していけるかにもかかっています。
現場で通訳を聞いている人は、元々我々がクライアントまたはエージェントから聞いていた情報とどれくらい違っているかなんて考えもしないと思いますが、現場に行ってみて話が違う!ということはそれほど珍しいことではありません。
先日あるセミナー通訳をしたときのことです。当初は司会、プレゼン、Q&A 全て同通でやると聞いていたので、パートナーの通訳者と進行表に従って分担を分けて準備し会場に行くと、プレゼンは同通でQ&A はシステムの関係で逐次になりますと言われました。急きょ分担分けしていたパートを組み直し、一人が同通終わったら、ブースから壇上に駆け上がりQ&Aを始めるという何とも変な形での通訳となりました。
Q&A以外はみんな同通で進んでいたので、スピーカーも司会も逐次通訳になるQ&Aだけ止まるということが急にはできないようで、油断すると好きなだけ話し続けていきます。これ以上は無理というところで割って入り、スピーカーに少しむっとされながら、Q&Aをこなしまたブースに戻ってという繰り返し。事前にこのことが分かっていたら、パートナーとの分担も変わっていたし、準備もまた変わっていたと思いますが、現場で言われるとやらざるを得ないのが辛いところ。
こういったことはよくある事で、資料の当日差し替えやスピーカーの変更や追加もありますし、逐次と聞いていたら会議が盛り上がりすぎて、ウィスパリングになったり、パナガイドありますからと、パナガイドがどこからともなく出てきて、同通になったりすることもあります。また“通訳者は女性がいいんだよね”と当日の打ち合わせで言われて、“そんなこと今頃言われても・・・”と困ったこともありました。さすがにこの“女性が”というリクエストには“柔軟に”対応することはできませんでしたが・・・。こういう想定していない変更は通訳のパフォーマンスに大きな影響を与えます。
フリーランスの難しいところは要求される語学レベルや専門性だけではなく、柔軟に臨機応変にいろいろなことに対応していく能力も同様に要求されることではないでしょうか。ただこればかりは準備や練習のしようがなく、場数をこなしていくしかないでしょう。そういう意味でいろいろな人生経験をしている人は強いですね。
先輩通訳者と話をしていると、何が起きても動じず、通訳をしているこの人にもこんな過去があったんだと驚くとともに、これから自分もさらなるサプライズに翻弄されながら、また一枚面の皮が厚くなっていくんだろうなとセミナー会場をあとにしました。
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