伝えてますか
通訳訓練をしている時に“訳す”ことと“伝える”ということがいかに難しいかと思うことがあります。“訳す”こと=“伝える”ということに自動的になっているのが理想ですが、多くの場合、“訳す”という部分にほとんどの力を使い、“伝える”というところまで注意が行き届かず、単に言葉を発するだけに終始していることがあります。
通訳の逐次の授業でも、生徒さんは必死で聞こえた単語をメモに取り、全神経を集中し、その単語をできるだけ正確に訳そうとするのですが、単語はほとんど取れて、正確に訳せているにもかかわらず、通訳を聞いていても何を言っているのかわからないという現象が起こります。不思議なことに、生徒さんに“結局、今の箇所はどういう意味だったのですか?”と聞くと、案外正しく情報が伝えられるのです。
文字情報がある場合はもっと深刻です。例えば記事をサイトラさせると顕著に出ますが、単語単位で訳出をして、意味不明または機械翻訳のような訳になってしまうことが本当によく起こります。普段の通訳訓練では、訳がどう伝わったかまで考えず、言い終えたことで満足してしまうので、別の生徒にその訳をまた反対言語に訳し返させると、いかに伝わっていないかよくわかります。
実際の通訳現場だと、こういう通訳では話がどんどん予想しない方向に進行してしまい、収集がつかなくなってしまいます。現場でこういうつらい経験をしたことのある人であれば、単語に正確=伝わる通訳ではないことはよくわかるはずです。上手な人の通訳を聞くと必ずしも単語1つ1つを訳していないのに、全ての情報が無駄なく入っています。いくつかの単語をまとめて意味を出すので、単語を1つ1つ訳す場合よりも、ぎこちなさがなくすっきりと理解できる訳になるのです。
しかし、このすっきり訳はそう簡単ではありません。英語を聞いたときに英語の単語がバラバラに聞こえて、取ったメモにバラバラの単語が並んでいるようでは、このような訳は不可能です。聞いた瞬間に単語ではなく、意味のまとまりとして理解できる(感じ取れる)ことが必須となります。基本的な英語力が不足しているケースもありますが、意外と英語力の高い人でも英語をどう処理していいのかがつかみきれていないので、とりあえず単語に走り、結局機械翻訳のようなガチガチの訳になってしまうことがよくあります。
そういう場合は、数文を訳すのではなく、1文をさらに意味のかたまりの単位で音声を切って流し、聞こえた英語を再生させ、その後すぐにその部分を訳させるという練習を行うことがあります。このようにかたまりごとで聞かせ、訳させるとかなり正確で自然に訳すことができます。この練習をある程度続けていくと、単語ではなくもっと大きなかたまりで意味を捉えることができるようになり、聞こえた単語をとにかく書き出すという癖を直すことができ、以前より自然な訳が出るようになります。
現場の経験が不足していると、“伝える”という意識を持つことが難しく、どうしても単語を全部入れて“訳す”ことに傾いてしまいます。“通訳”というのは訳すという言葉と通じるという言葉も入っているように、“訳す”と“通じる(伝える)”を両立させる必要があると思います。通と訳がバランスよく提供できる通訳者でありたいものですね。
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