本当に届けるために
最近、ビジネスマンを対象としたやり直し英文法という講座を行いました。その名の通り文法に不安を感じている人のための講座で、比較的初心者の方が対象。文法というと案外英語ができる人でも不安に感じている方がいるようで、大人向けの文法講座をやりますと言うと、私も受けたいですと通訳をやっている方からも言われて少しびっくりしています。
英語を勉強していく上で文法はやはり外せない項目だと思いますが、TOEICのような試験対策ではなく、ビジネスで英語を使えるようになりたいという方にとって、どこまでの文法知識が本当に必要なのかを推し量るのはなかなか難しいものです。
理屈から言うと、品詞から始まり、もろもろの文法事項を勉強し、正確な知識が多くなればなるほど、より正確なコミュニケーションができる確率は高くなります(もちろんそれを活かしきれるだけの運用力がないと片手落ちになってしまいますが)。
今回のクラスでは、文法のやり直しということで、これだけ知っていればOKという内容のものを選んで準備し、授業に臨んだものの、いざ授業を始めてみると、必要以上の情報を提供しているのではないだろうかと自問自答してしまいました。情報量が多い方が生徒さんのためになるという思いと、これも大切だし、あれも知っておいてほしいと思い授業をしてしまったため、膨大な量の情報を生徒さんに丸投げしてしまったような気がしました。
教えるという点でいえば、情報というのは多ければ多いほどいいわけではありません。伝えたいという気持ちが先行しすぎで、相手のレベルやニーズを十分に考えず、あれもこれもと情報を与えすぎるのはかえって混乱を招き、逆効果になることがよくあります。
これは教えることだけに限ったことではありません。通訳でもそうですし、誰かに何かを説明するときも同じです。“相手のレベルとニーズを感じ取る“ことが必要なのですが、これはなかなか難しく、多くの場合、自分の経験ベースで“相手にはこれが必要だろう”と思い込み、伝える情報や伝える言葉を決めてしまうのです。その結果、空回りし、何で伝わらないんだろう???って話しながら考え込んでしまいます。
通訳でもそうですよね。“スピーカーはこう言ってますから”とそのまま訳して終わりにしてしまうと、うまく伝わらず、情報の出し方や量を変えてやっと伝わることも少なくありませんし、その逆で情報が多すぎで何を言っているのかわからないというケースもあります。通訳をしていて、何で伝わらないんだろうと思うことがたまにありますが、多くの場合は、聞き手のレベルやニーズの想定が間違っていることがその原因としてあるような気がします。
人に情報を届けるというのは本当に難しいものです。通訳や講師の仕事をしていて、情報というのは、自分の思いだけはうまく伝わらず、相手のニーズとレベルを的確に見極め、それに応じで情報を取捨選択していく勇気も必要なんだと感じます。情報過多に陥りがちな傾向を改め、思い切って情報を捨ててでも、本当に必要なものだけを確実に届けることを心掛けたいものです。
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