INTERPRETATION

プロ通訳の条件

上谷覚志

やりなおし!英語道場

昨今の不況は通訳業界への影響は仕事の量の減少だけではなく、仕事での要求の厳しさにも表れているような気がします。企業の予算が少なくなっており、本来なら2人または3人体制でやるべきところを1人または2人というように通訳者1人当たりの負荷が大きくなっているような気がします。これが不況だけの影響なのか、構造的な変化なのか、それとも複合的な要因でこうなっているのかわかりません。

構造的な変化の例としては、社内通訳→フリーランスになる人が増え、社内通訳のノリで通訳をしてしまい、1人で何時間もウィスパリングをするとか、サービス精神からか「空いた時間に翻訳もやります!」とやってしまう方がいて、フリーランスの通訳にそういうことが要求されることがあるという話も聞くようになりました。臨機応変・顧客満足度重視という点で考えると悪いとは言えないですが、「頑張ります!」と言って1人で数時間も同通したり、空いてる時間に翻訳までやってしまうと、他の通訳者にも同じことが要求されてしまうという悪循環が生じます。

先日、知り合いから通訳者が案件の依頼を受けるべきかどうかの相談の連絡がありました。1人体制で3時間休憩なしでウィスパリングというものです。大企業の社長が数十名集まる会合で、外国人が数名おり、その外国人に通訳が必要という案件だったらしいのですが、結局、相談した結果3時間ウィスパリングをして通訳の品質が保てなかった場合、クレームになるというリスクがあるので断った方がいいという話になりました。これ以外にも海外側数名、日本人側10名以上の電話会議で一人同通という案件のオファーがあったという話もききます。

現在のコスト削減圧力はある意味仕方ないとはいえ、通訳がそれをどこまで吸収することがプロとして求められるのかは難しい問題です。今どの業界でもコストカットにより仕事で要求されることがこれまでよりも高くなっていると思いますので、通訳だけがこれまで通りの条件で仕事ができると考えるのは甘いというのはわかりますが、物理的、体力的にどこまで可能なのでしょうか?

3時間1人ウィスパリングや電話会議1人同通も普通にやっているという人達もいるかもしれませんが、やはり途中で集中力が持たずに通訳の質が落ち始めるというリスクは常にあります。クライアントによっては“だいたい”でいいからとか、“ざっくり要点だけをまとめてもらえばいいから”ということをおっしゃることがありますが、通訳者に“だいたい”や“ざっくり”を判断できる知識も通常ありませんし、“この程度でいいや”と決める権限もありません。

これまでの通訳条件が良すぎたのか、このような厳しい条件が今後スタンダードになっていくのか、この不況から回復したら、また前のような条件に戻るのかわかりませんが、着実に通訳者に求められているものが厳しくなってきているということと、そういう要求に対して応えている通訳者がいるという事実は事実として受け止めないといけないですね。

クライアントの中には1時間の会議で半日料金払うのはおかしいというところもでてきたりしていますが、料金体系もこれまで通り半日と終日というこれまでの料金体系が崩れてしまうことがないようにこの業界にいる人が紳士協定を守っていかないといけないと思います。

(2009年4月21日)

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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