INTERPRETATION

2008年を振り返って

上谷覚志

やりなおし!英語道場

今年も残すところ後10日程度ですね。皆さんにとって2008年はどういう年だったのでしょうか?経済的にも社会的にもそして政治的にも激動の一年だったと思います。自分にとってもいろいろな意味で変化とチャレンジの年でしたし、通訳という職業の奥深さを垣間見た年でもありました。

10年前の話ですが、オーストラリアの大学院で会議通訳の修士を取得後、帰国し行ったIT関係のトレーニングの仕事で失敗し、自分の実力のなさや通訳の難しさと怖さも一気に味わうこととなりました。駆け出しの頃は通訳と呼ばれることにまだ抵抗や違和感がありました。英語だってきちんと聞き取れるわけではなし、日本語すら会議に入るとわからないことも結構ありましたし、自分のことを”通訳です“と自信を持って言えない時期がかなり続きました。駆け出しの頃の仕事といえば簡単な内容を相手に伝えるようなものや簡単なアテンドのような仕事が多く、通訳というよりも英語のアルバイトのようなものが多かったので、仕事に対してあまり誇りを持てずにいた時期でもありました。

社内通訳を経て、フリーランスに戻りいろいろな仕事をこなしていく中で、徐々に通訳という仕事に対する認識も変わってきました。今年はこれまでやったことのないような分野での通訳が増え、先輩通訳と組ませて頂く機会に多く恵まれたお陰で、通訳という仕事を違った角度から見ることができた貴重な一年となりました。同時に自分の課題を非常に明確な形で突きつけられた年でもありました。

何度かコラムでも書きましたが、先輩通訳の素晴らしいパフォーマンスを拝見するたびに、プロの通訳と名乗るために達成すべきレベルの高さを思い知らされ、通訳とは本物の職人の仕事であると改めて確信させられました。

では何が違うのかですが、一番違うのは“正確な表現力”だと思います。多くの人は表現力を強化するために単語の数を増やすことに注力しますが、できる人は単語数に依存するのではなく、単語に対する理解の深さを追及しているように思います。深さというのは、英語であれば単語の意味だけではなく、コロケーション、用法、どういう状況で使われるべき言葉なのかを完全に把握することを指しています。深い単語の理解がベースにあると、英語を聞いた時も自然に耳に入ってくるものです。単語数依存型通訳だと、聞いた時に意味は伝わるけど、ちょっとぎこちない“翻訳調”になります。日本語もしかりです。それから話し方や言葉のレジスターもスピーカーや内容にしっかり合わせているので、英日でも日英でも、聞いた時にまるで通訳でないように聞こえるくらい自然な訳出なのです。

この正確な表現力を支えているのが、実は正確な情報分析力です。話を聞きながら何がメインポイントで、それを説明するための補助情報は何かを瞬時に分析し、どういう流れで情報を提示すればいいかまで考え、それを論理的な流れで瞬時に訳していきます。このロジックの再構成力も先輩通訳を見ていて学ばなければと思う点の一つです。

言葉に忠実であることは、出てくる単語を全て置き換えていくのではなく、発話された言葉から感じ取ったメッセージロジックをいかに忠実に再構成できるかだと思います。ただ正確な表現力や正確な情報分析力というのは、机の勉強だけで得られるものではありません。人生の中でいろいろなことを経験し、さまざまな状況に身を置くことで、どういう状況でどういう表現をどのように伝えるべきかを体感しないと通訳の時に適切な言葉は出てこないと思います。

こういったことを2009年の自分の課題としていきたいと思いますが、2009年だけで完了できるものではありません。通訳という職人であり続ける限り続けなければならない修行のようなものだと思います。

これが今年最後のコラムになりますが、来年以降もどのように英語に取り組めばいいのかや、職人通訳への道の報告も交えていきたいと思いますので、よろしくお願いします!

それでは2009年が皆様にとって素晴らしい一年となりますように・・・。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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