INTERPRETATION

リレー通訳について

上谷覚志

やりなおし!英語道場

いよいよ12月後半にさしかかり、通訳の繁忙期も終わり、多くの通訳の方もほっとされているのではないでしょうか?

先日、数日にまたがる農業関連のシンポジウムの通訳を行いました。通常は英語と日本語がメイン言語になるのですが、今回はあるヨーロッパ言語と日本語がメインで英語はサブのような形でヨーロッパ言語→日本語→英語というリレー形式での同通の形で行われました。日本語でのプレゼンの場合は直接英語に訳していくので気にならなかったのですが、ヨーロッパ言語からのリレーでいろいろと考えさせられることがありました。

普段同時通訳をしていると聞こえてくる言葉を訳出するに注力し、聞き手が理解する上でどういう負担がかかっているか、まで考える余裕がないことが多いのですが、今回他言語から日本語へ訳されたものをリレーで英語に訳していくというプロセスの中で、通訳を聞き理解する人の負担について改めて考えさせられました。

普段、何かを理解するために通訳を聞く機会がなかったのでヨーロッパ言語の通訳者から送られてくる日本語のアウトプットは新鮮でした。今回の通訳の方は、ほとんどがヨーロッパ言語が母国語で、日本語が第二外国語(みなほぼ完璧なバイリンガルでしたが)でした。しかし内容的にかなりテクニカルなものもあり、言葉に詰まり、あーという溜めの言葉が出てくる時や、情報を待ちに待ってやっと捉えられ、一気に訳出する時の気持ちも横で聞いていてよくわかりました。

通常のプレゼンの場合、スピーカーが何らかの理由で止まっても、通訳を聞いている人は大人しくスピーカーが話し始めるのを待ちますし、通訳が止まってもパニックにはなりません。しかしリレー通訳ではスピーカーが話しているのに、今回のようにヨーロッパ言語の通訳が止まってしまったために英語の通訳が出せず、こちらをジロっと見られることが何度かありました。以前他の通訳者が“そういうときは「ただいまリレー通訳の音声が届かず通訳不能でございます」って言えばいいのよ”と言っていましたが、いざそういう場面になるとなかなかそういうことは言えないものです。

スピーカーが話しているのにリレー通訳音声がこない場合だけではなく、こちらが訳し始めると同時にヨーロッパチームの通訳が途中で諦めてしまい、“えっ!!訳し始めたのに・・・このあとどうすればいいの??”と放置され途方に暮れる場面もありました。

今回3日間で大量の内容の異なるプレゼンが行われ、ほぼ徹夜に近い状況で準備をし、スピーカーとのブリーフィングもない条件での同時通訳ですから、完璧に訳を出し切るというのはかなり困難な状況にありました。ただ通訳という仕事の厳しさは、たとえどのような条件、状況であったしても聞いている側からすればきちんした訳出を安定的に期待されることにあります。

この“安定的に”というところが難しく、次から次への投げられてくる変化球、時には魔球のような情報を何事もないように、冷静沈着に処理して訳していくというのは今更ながら、並大抵のことではないということを再認識させられました。普段必死に出すことで全神経を使い、大量の情報を機関銃のように出すことでいかに聞き手の理解に負担を与えているのかということも今回のヨーロッパ通訳のアウトプットを聞き、振り返ることができました。また、途中で通訳を諦めて次のトピックに移ってしまうと聞き手にどのようなインパクトがあるのかも、今回身を持って体感することができました。

当たり前ですが、頑張るだけでは駄目で、時には聞こえた情報を全て出すのではなく、二次的な情報を捨て、本当に出すべき情報に絞る勇気も必要であるとも感じました。

今回のヨーロッパ通訳チームの方の名誉のために書き加えると、この厳しい条件でこれだけのプレゼンの量・質を第二外国語である日本語に、しかも素晴らしい訳出で出し切ったプロフェッショナリズムには頭が下がる思いがしますし、改めて母国語である自分の日本語のブラッシュアップの必要性を痛感させられた案件でした。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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