INTERPRETATION

基礎はサイトラから

上谷覚志

やりなおし!英語道場

みなさん、こんにちは。

通訳の秋の繁忙期でにわかに忙しくなり、結果的に先週のコラムの原稿を書く時間が全く取れませんでした。今回は“通訳者と時間”つまり“フリーランス通訳は本当にフリーか?”について書いてみたいと思います。

職業を聞かれてフリーランスで通訳をしていると答えると、“いいですね、自由で。休みたい時に休めて、自分でスケジュール決められるなんて、羨ましいです。”というコメントが返ってきます。確かに、この日は仕事をしないと決めて、ブロックしてしまうこともできますし、知り合いの通訳の中には、毎年夏休み一か月海外に行って繁忙期に備えたり、スキーが生活の中心で、冬場は何カ月も山にこもり雪がなくなったら都会に帰ってきて通訳をして、また山に帰るという人もいます。そういう話を聞くと、確かにフリーランスはフリーだなと思いますが、必ずしもそうでない部分も多いと思います。

昨日までは、“繁忙期なのに例年ほどは忙しくないのかな?”などと思っていると、いきなり仕事が入っってきてあたふたと準備をし、気づけば海外にいるというようなことが日常的に起こります。“準備”の部分でも、いろいろな仕事が同じ週に重なり、エージェントから送られてくる資料の束がどんどん机の上に積み上がってくるのを横目に見つつ、とりあえず今やらないといけないものから読み込んでいきます。途中で追加資料が入ることもよくあり、先日なんて当日の資料がバイク便で日付が変わってから送られてきました。こんな時間にバイク便でくるということはかなりの量があることが多いのですが、予想通りびっちり両面コピー。しかもパワーポイント二分割の資料が届きました。あと5時間もしたら自宅を出なければならないのに、“読む”か“寝る”かの選択です。よほどのことがない限り、“寝る”という選択肢はなく、“読めなく”てもとりあえず“資料を見て”現地入りします。

先日書いたコラムでIR通訳について書きましたが、その週のIR会議でも明け方の3時頃エージェントから担当企業が決まったとの連絡があり、そこから準備を始めて朝からの会議に入るということもありました。また、時差の関係で夜11時スタートのテレビ会議の通訳の仕事を、夜中の2時頃までしてタクシーで帰宅、ほとんど寝る時間もなく着替えて朝9時からの別の通訳現場に入ったこともあります。

フリーランス通訳全員がこういうスケジュールで働いているわけではないと思いますし、もっとうまくタイムマネージメントをしている方も多いと思いますが、資料が届く時間等は結局、クライアント次第ですし、会議案件のスケジュールが土壇場で変わることもしょっちゅうです。フリーランス通訳の繁忙期スケジュールは通訳者がコントロールできる部分が本当に少ないような気がします。

社内通訳で残業つづきの長時間勤務をしていた時はプライベートの予定を何度もキャンセルして、友達いなくなるのではと真剣に悩んだことありましたが、フリーランスになり、繁忙期を迎えるとそんなこと悩む時間もなってしまいました。次々届く資料、次々変わる会議スケジュールに翻弄され、まさにフリーフォール生活です。

クライアントから”フリーランスですか、いいですね!“と言われるたびに、自分のフリーフォール生活を思い、まあ他人から見たらそう見えるんだろうな・・・と思いながら、“フリー ”じゃなくて“フリーフォールですけど・・・”って言いたい気持ちを抑えつつ、笑顔で“そうですね!”と答える生活が当分続きそうです。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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