INTERPRETATION

IR通訳

上谷覚志

やりなおし!英語道場

こんにちは。

先週は大手外資系証券会社主催のIRコンファレンスがあり、久しぶりのIRの仕事をしてきました。IRという通訳の仕事を聞いたことがない方も案外いらっしゃるのではないでしょうか?フリーランスで通訳をしているとIRは誰もがやる通訳の一つですが、通訳を目指す方のために今回はIRという仕事について少し書いてみたいと思います。

IRというのはInvestor Relationsの略で、企業が投資家に向けて経営状況や財務状況、業績動向に関する情報提供するための“投資家向け広報”を指しています。投資家が日本人の場合には通訳は発生しませんが、海外の投資家に自分たちの株を買ってもらうために、企業の社長自らが海外の大手投資会社に出向き広報活動をするときや、各企業のIR担当者が外国人投資家に説明するときに通訳が発生します。IR通訳はいくつかのパターンがありますが、一番一般的なのが一人の投資家について複数の企業を回り情報収集をする際の通訳とパターンです。

今回のIRコンファレンスは通常のように投資家に付いて複数の企業を回るのではなく、特定企業を1人の通訳が担当します。入れ替わり投資家が部屋にやってきて、1時間ほどでその会社の今期業績や来期見通しを始め、競合環境、人事、財務、マーケティング、商品戦略、配当、買収等々に関する質問をして、各社のIR担当者がそれに答えていくので、そのやり取りを通訳していきます。

今回は非常に大きなIRコンファレンスなので、大量の通訳者が集められ、あちらこちらで「お久しぶりです!」の挨拶が飛びかっており、最近仕事で一緒になっていない通訳者さんと近況報告をし合う格好の場でもありました。中にはかなりベテラン通訳の方もかなりいらっしゃって、一緒の企業を担当した通訳者さんとちょっとお話をしていると、“孫がねぇ・・・”という話になり、通訳という仕事の息の長さを感じます。

IRという仕事を始めたころはエージェントから送られてくる資料の多さに圧倒されました。何社もの資料が段ボール箱に入って宅急便で送られてきたときには、何をどう準備していいのかわからず、箱をじっと見つめてしまったこともありましたが、最近では投資家がどういうところを聞きたいのかがわかってきたので準備の時間がかなり減りました。

とはいっても、企業によっては聞いたことのないような製品や技術を扱っているところもあり、そういう場合は大変です。一度、ある化学製品を扱う企業を訪問したとき、投資家が興味本位で“化学製品の原料のナフサってどういうものなんですかね?”と軽く聞き、待ってました!とばかりに担当者の横にいた技術者がつらつらと化学式を駆使し、日本語でも聞いたことがないような化学物質を並べ立てて話し始めました。“興味本位で聞いただけなのに、ここまで詳しい説明が出てくるとは・・・”とちょっと困惑した顔をしている投資家の横で聞いたことのない化学物質名(とりあえずカタカナ)を“いつまでこの話続くんだろう・・・”と冷汗ダラダラかきながら通訳し続けるようなこともありましたし、業務的に難しくないと思って余裕をかまして臨むと、最近発行した転換社債の話や今期買収した企業の‘のれん代’、‘株主への利益還元’の話になり自社株買い云々といった話になり、IRを始めた頃は“何それ??”という感じで訳していたこともありました。慣れてくるとそういう話もスラスラとこなせるようになるのですから、やっぱり経験ですね。

1人の投資家に付く場合、数日間毎日2人で行動をするという点で移動中いろいろと話をすることが多く、通常の会議に出て通訳をして帰るという仕事とは違い、人と深く関わりながら通訳をするという面白さはあります。IRという仕事の性質上、企業や各業界の大きな流れを知り、今後の展望を読むという意味での面白さや、新聞一面を飾っている内容そのものが話題になり、これから記事になっていくような内容をいち早く知ることができる面白さもあります。

IRはフリーランスになったばかりの人がやるというイメージがありますが、実際にはいろいろな意味で学ぶことが多い面白いタイプの通訳だと思います。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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