リーディングを伴わないリスニング訓練
最近、リスニングどうしたらいいのでしょうか?という質問を数名の方から聞かれましたので、今回はリスニングについて考えて見たいと思います。
質問を受けると必ず“どうやって今勉強されているか”と質問します。そうするとほとんどの方が“音声を通勤途中で聞いています”と答えます。リスニングが弱いから音に慣れるため、音声を聞くというのは一見もっともなように聞こえますし、あるレベルまでは必要だと思います。ただあるレベルを超えた段階で果たして音声を聞くだけで、リスニングは伸びるのでしょうか?
よく“聞き流すだけでいい”“英語のシャワーを浴びる”というキャッチフレーズの教材が巷で持てはやされていますが、実際にこの音声インプットを増やすことでリスニングが伸びるのは、日常会話を何とかこなせればいいというレベルまでだと思います。決まり文句やフレーズを丸ごと音声的に覚えてしまうことは大変重要ですし、有効な方法だと思うのです。
日本の学校教育では文法やリーディングがメインで、リスニング練習が欠落していますので、自分のリーディングレベル(さっと読んで理解できるレベル)程度の英語を大量に聞くことで、読んでわかる情報を聞いてもわかるようにし、リーディング力とリスニング力のギャップを埋めることは可能です。
ただその先も同じように音声を聞くことでリスニング力を上げていこうとすると、急に学習曲線が緩やかになります。いわゆる“伸び悩み”です。
ではどうすればいいのでしょうか?
聞く量を増やすのがいいのでしょうか?
もちろん量を増やして、それを集中して聞くことができれば力は付くでしょう。ただこういう状況の場合、わかるところはわかるけど、わからないところは全くわからないわけですから、数回、聞き流すだけでは“わからないところはやはりそのまま”なわけです。
基本的には、日常会話レベルを超えたものに関しては、“読んでわからないものは聞いてもわからない”ということになると思います。通訳を始めたばかりのころに、2社間ライセンス契約の仕事をしたことがありました。両者弁護士をたてて交渉をしていくのですが、外国人弁護士が話し始めるとどうしてもわからず、何度も聞き返しました。スピードが速いわけでもないし、単語レベルでも聞いたことのないようなものはあまりないのに頭に入ってこないのです。音的には“聞けているはず”なのに、意味がわからないという奇妙なことが起こったのです。
その原因をよくよく考えてみると、自分がライセンス契約を日本語でも英語でもきちんと読んだことがないので、そこで使われてる用語が一般的な用語とは違っていたり、法律用語と気づかず聞き逃していたために、理解できなかったわけです。
例えば、弁護士が
“Please strike this clause.”
と言ったのを聞いて、契約交渉を英語でやったことのある人なら
“この条項を削除してください”
とわかりますが、
知らない人は“ストライク??”“打つ??”と混乱してしまうと思います。
母国語でも全く同じで、基礎知識がないことは聞いても理解できないものです。日英の通訳訓練をしていても、日本語のスピーチにも関わらず“日本語がわかりません”という生徒さんが必ずいらっしゃいます。音は取れているので、“今のところは何と言っていましたか?”と聞くと聞いた通り音声を再現できますが、“今の内容を言い換えるとどうなりますか?”と聞くと、“よくわかりません”という返答が返ってくることも珍しくありません。
リスニング訓練というと音が取れないということに重きを置きすぎで、音声認識に目を向けがちですが、本当の問題は読んでわかるレベルが聞いてわかるレベルに追いついていないことの方が多いような気がします。リーディングを伴わないリスニング訓練は効率がいい勉強方法とは言えません。
来週は具体的な対策について考えていたいと思います。
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