INTERPRETATION

たかが音読、されど音読

上谷覚志

やりなおし!英語道場

先日の授業で、ある生徒さんのサイトラやクイックレスポンスのパフォーマンスが急によくなっているのに気が付きました。

その状態が続くと逐次のパフォーマンスまで良くなっていきます。人によっては先週と比べて明らかに違う場合もあります。通常、英語にしろ、通訳にしろ、上達はそれほど明白な形でわかるわけではありません。人によっては半年または一年続けてやっと成長を実感できるということも珍しくありません。

ではこの急激に パフォーマンスが上がった人たちは何をしたのでしょうか?もちろんいろいろな勉強方法を組み合わせたり、サイトラであれば調べ物を徹底的に行ったとかいろ いろと要因はあると思いますが、共通して行っていたのが音読でした。“な〜んだ”という声が聞こえそうですが、音読は侮れません。

連休に実家に帰り、持っていったNikkei Weeklyの 記事を音読してみました。1時間音読するだけでも結構大変ですね。不思議なことに読み進めるにつれ、読めるスピードが上がり、何となくスムーズに読めるようになってきました。しかもイントネーションの強弱のメリハリが出てきて、読み始めたころよりも“英文を読んでいる”という感覚から“ニュース原稿を読み、聞き手に伝えている”という感覚になってきました。

連休明けの通訳では、普段より日英の訳出がスムーズになってきたことに驚きました。訳語自体の質が上がったというところまでは行きませんでしたが、スピードやイントネーションの質は(気のせいかもしれませんが)上がったと思います。

最初は英文記事を読むだけで始めても、音読を休憩せずに続けていくと、次第に“自分が考えて英語を話している”というモードになっているような気がしました。いわゆる“英語モード”に切り替わったのかもしれません。ですからその直後の日英がスムーズになったのもある程度は納得できます。

私は授業中に“サイトラが英語のロジックを理解し、英語で考える力をつけるのに最適”という話をよくします。サイトラをして内容が分かっているものや、初見でもある程度内容が取れるものを音読すると、意味と音声が融合し、英語の音に対するレスポンスも良くなったような気がします。ネィティブの発音したものを聞くだけではなく、自分の発音する英語を聞くことでも英語の音声的な感覚を磨くことができるのかもしれません。

英日の授業で、スクリプトを見ると“あ〜”という内容でも、音声で聞くとたちまち「わかりません」とか「メモが取りきれませんでした」という人に音読を是非お勧めしたいと思います。目で見てわかる情報と耳で聞いてわかる情報とが乖離している人(通常乖離していますが)はそのギャップを埋めるために音読をし、目で見てわかる英語を聞いてもわかる英語に変えていく必要があると思います。

また普段英語を 話す機会がほとんどないという方にも音読はお勧めしたいですね。もちろん英語を話す機会を積極的に見つけていく努力も大切ですが、機会があったとしても、スピーキング力が付くほど英語の量を話せるかどうかは疑問です。うまく話せないうちには、相手の言っていることに頷いているだけで、相づちばかりがうまくなるという可能性もあるわけです。その点音読は話したい(強化したい)内容を集中的に声に出せるわけですから、非常に効率がいいわけです。

最初の段階では、発音がうまくできる、できないはあまり気にせず、ある一定のスピードで読めるかどうかだけに集中してみてください。読んでいて詰まったところは、自分の理解が甘いか、知らない単語なのか、構文がわからなくなったのか、いろいろと原因はあると思いますが、自分の弱点だと思いますので、なぜ詰まったのかを分析し、スムーズに読めるように音読を続けてみてください。

最初は“読んでるだけ”からだんだん“話している”感じへと変わっていくと、こっちのものです。その時にCNNやBBCのアンカーの話し方を一度聞いてみて、さらに音読を続けると、不思議と読み方がそうなってきます。

普段は目で見る情報が圧倒的に多いと思いますので、声に出し自分の耳で聞くという情報を脳に送り込むことで、英語への反応が驚くほど早く体感できると思います。

ぜひ一度お試しください!

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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