INTERPRETATION

ご利用は計画的に

上谷覚志

やりなおし!英語道場

今回は英語の勉強の話ではなく、クライアントに食事に誘われたときに起こったちょっとした事件について書きたいと思います。CMではないですが、“ご利用は計画的に“という教訓のお話です。以前、“さかな、さかな、さかなを食べると・・・(第17回)”というタイトルでコラムを書きましたが、今回も寿司つながりのエピソードです。

少し前に、クライアントと地方都市を回る出張の仕事を受けました。初日の商談がうまくいき、上機嫌のクライアントから「今日は僕がディナーにお寿司をご馳走したいから、場所を決めて欲しい」と言われました。

不慣れな土地だったので、ホテルのコンシェルジェに「外国人のお客様で、お寿司を召し上がりたいとおっしゃっているので、お勧めのお店を予約していただけますか?」とお願いしました。「外国人のお客様に人気のお店があり、英語のメニューもありますので、こちらをご予約しましょうか?」と言われ、“人気店で英語のメニューあり”なんてかなりいい感じだな・・・以前は寿司屋で英語の魚の名前で散々痛い目にあわされたので、ここだけは押さえておかないと・・・”「じゃそれで」と予約をお願いしました。

タクシーで移動中、寿司が大好きで、アメリカでも頻繁に寿司を食べていて、日本の寿司は安くて新鮮で美味しいから、今日は本当に楽しみだと子供のように喜ぶクライアント!「コンシェルジェのお勧めだしかなり期待できるはず!!」とタクシーの中で二人大盛り上がり。

“今回は英語メニューあるから、どんな魚でも大丈夫。なんぼでも好きなだけどうぞどうぞ・・・前回のように魚の英語名がわからないから、マグロだけしか食べさせないような姑息な手は使わなくて済むわ・・・へへへ”と心の中で思いながら、寿司屋に到着。

初日の商談の成功でクライアントはかなりご機嫌で、「今日は僕のおごりだから、遠慮なく何でも注文して」と言い、“さすが大手外資系のマネージャーは太っ腹やな・・・ちょっと高そうな店やけどまあええか”とメニューを開けると、ほとんどが時価!

7〜8種類の握りと巻きセットメニューなるものがあり、それも1人8000円。“ちょっとやばいかも。自分で払うならいいけど、会ったばかりのクライアントにおごってもらうのに、これはまずいかな〜。でも、ぶっちりぎり寿司みたいにしゃりが見えなくらいの大ネタの寿司かもしれないし、それに期待しよう・・・”と気を落ち着け、生ビールを一口飲み、カウンター隣横に座っているクライアントを見ると、気のせいか顔から笑顔が消え、じっとメニューをにらんでいる・・・。“あかん・・これは・・・”

カウンターで最初の握りが出されたとき、目の前にあるのは期待していたしゃり隠しのぶっちぎり寿司ではなく、親指第二関節くらいのプチプチ寿司がちょこんと一貫だけ。“こんなプチ握り見たことないわ!これが8貫と巻き寿司で8000円??”

一口で消えてしまいそうな寿司を三つほど食べたとき、クライアントが「結構お腹いっぱいになってきたなぁ」と一言。“うそっ!!”と思いつつも、クライアントのおごりなので「そうですよね。自分も少しお腹いっぱいになってきたかな」と調子こいてしまいました。寿司を全部平らげても、まだ腹四分目くらいの状態で、二人で手持ち無沙汰のチビチビと生ビールをすすっていると「もう少し頼もうか?」とクライアント。

確かにお腹は減ってるから何か注文したいけど、時価ものを頼むわけにもいかず、もう一度メニューをチェック。“プチ寿司だと何個食べても焼け石に水だしなぁ。あっ茶碗蒸しあるわ。これやったら安いし、お腹に溜まるしいいかも!!”と値段をみると、2500円!!

結局、クライアントが頼んだ鉄火巻きを二人で頂きお勘定。当然寿司屋に来たときの盛り上がりはとっくの昔に消えてしまい、何とも重苦しい空気と沈黙が二人の間に漂うなか、店をあとにしました。

本当ならそのあとパーッと飲みに行こうという話もしていたのですが、かなりの下げモードで、どちらともなくホテルに戻ろうかという話になり、ホテルに戻りました。

日本の寿司はおいしくて安いから楽しみと言っていた陽気なアメリカ人が帰りには、寡黙なアメリカ人になってしまったのを見て申し訳ない気分になると同時に、自分もプチ寿司が登場するたびに、寿司を褒めちぎったため疲れてしまいました。

IRの通訳でもそうですし、こういった出張先で勝手のわからない外国人のためにレストランを通訳が決めるケースは案外あるものです。通訳はサービス業なので、ある程度の予算を確認して、それをコンシェルジェに伝える心遣いがあってもよかったかなと反省しました。前回の教訓を活かし、今回は魚の名前に苦しめられることはありませんでしたが、思わぬ落とし穴にずぼっとはまってしまいました。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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