社内翻訳転身法
早いものでこのコラムも記念すべき50回を迎えると同時に、二年目に入りました。もう一年たったのかという感慨深い気持ちといろいろな方に支えていただき二年目を迎えることができたことへの感謝の気持ちでいっぱいです。このコラムを通じていろいろな人と出会うことができました。二年目もさらにどのような出会いがあるのか本当に楽しみです。
さて今回は社内通訳者と社内翻訳者について書いてみたいと思います。私もこれまで3社で社内通訳をしました。私の場合は、通訳の占める 割合が圧倒的に多く、翻訳は通訳の合間に時間があれば行うという感じでした。翻訳は通訳の質を上げていくという点で非常に有効だと思いますし、通訳的な処理の仕方も翻訳のスピードを上げていく上で同様に有効だと思います。両方をうまく組み合わせることでそれぞれのレベルを上げていくことは可能だと思いますが、やればやるほど通訳と翻訳は全く違ったスキルが要求されると痛感させられます。
最近、クラスに来られる方で、社内で翻訳をされている方が増えてきました。こういう方は一般的に語彙や文法力がしっかりしていて確実な訳出をされます。性格的にも真面目に取り組まれるタイプの方が多く、宿題もきちんとやってこられます。ただ実際にクラスに来られた方で、社内翻訳から社内通訳へ転身される方は案外少ないように思います。なぜでしょうか?大きく二つあると思います。
一つは緊急性がないからです。いずれ通訳もと思っても、とりあえず英語を使う仕事をしているので、今すぐ転職しなくてもいいという気持ちがあり、何となくのんびりした“いずれは・・・できれば・・・”といったモードで勉強されているからだと思います。
もう一つの決定的な問題はスピードです。社内翻訳者で通訳もいずれはやりたいという方の共通している問題です。翻訳の場合は、訳語を考える場合、何分、何十分かけても誰からも文句は言われません。それに対して通訳の場合は瞬間的に訳語を出していかないといけません。同通だったら数秒以内、逐次であっても音を聞いてメモを取りながら、ほとんどの訳語や話の持って行き方を決めるので、実際にはほとんど時間はありません。
翻訳をメインでやっている方の場合は、このスピードが圧倒的に欠落しています。瞬時に訳語を決め、話しながら修正していくというプロセスは翻訳にはないもので、当然と言えば当然ですよね。ただ翻訳メインから通訳メインに変わるつもりであれば、このスピード感を身につけないと無理です。見ているとこの転換は案外難しいようで、マラソンから100メートルの短距離に転向するくらい大変だと思います。
スピード感をつけていくためには、翻訳と通訳とは全く違うスキルということを理解した上で、少し微調整するというのではなく、全く新しいスキルを一から学ぶ気持ちで臨み、サイトラたくさんこなして、前からどんどん訳していく感覚を身につけることがまず必要だと思います。逐次の練習でもbest expressionを狙うのではなく、スピード重視で second best/third best expressionsを早く出すことに重点を置いた練習に変える必要があると思います。社内通訳者と社内翻訳者では、特に日英でのスピードの差が顕著に出ます。いい表現にこだわる気持ちを持ちながら、基本は“言葉を訳している”というよりも、“情報を伝えている”という気持ちで訳出することが社内翻訳者から社内通訳者への転身には一番必要なのではないかなと思います。
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