TOEICの英検化
日本で一番有名な英語のテストはTOEICだと思いますが、皆さんは受験されたことありますか?
私は一年間アメリカに行って帰国してすぐに一度だけ受験したことがあります。15年前になります。当時の英語検定の主役は英検で、英検一級を持っていること=英語できますというのが一般的な認識でした。今のTOEIC対策本のように英検攻略本があふれ、英検対策講座もたくさんありました。英語関係の募集でもTOEICではなく“英検一級要”と書かれた求人が当時たくさん出ていました。しかし、英検一級の試験が“本当の”コミュニケーション能力を計るのには適さないという批判があり、リスニング重視で日常目にするような平易な英語を短時間で処理するというTOEICはあっという間に多くの企業に語学判断基準として採用されると受験者数も一気に増加しました。
英語上級者や英語マニアの中にはまだ英検一級に挑戦する人もいるようですが、圧倒的にTOEIC優位は揺るぎないですよね。しかしここ数年ある奇妙な傾向が気になるようになってきました。つまりTOEICスコアと英語運用力との相関関係が崩れてきたような気がするのです。以前はTOEICスコアが高いと運用能力もそれなりに高いと言えたのですが、最近はそうでもないのではと感じています。
英検全盛期の頃に同じ一級でも実力にかなりのばらつきがあるという批判があり、TOEICのように個人個人のスコアを出す方がより正確な実力を表せると言われていました。現在、TOEIC攻略本がたくさんでていて、各セクションごとにこの問題の場合の答えはAかBでCやDは答えにはなりえない゛と言った受験英語さながらの傾向と対策が繰り広げられ、その結果、本来の“コミュニケーション”能力を計るという目的に合わなくなり、テクニックやテスト自体に慣れることで得点が上がるようになってきたからではないかなと思います。
TOEICは初心者や中級者のコミュニケーション能力を計るには有効だと思いますが、例えば900点を超えたレベルの人のコミュニケーション能力を計るには限界があると思います。通訳の授業(特に日英の授業)を見ていて、明らかに英語運用力に問題がある人でもTOEICではかなりの高得点ということは珍しくありません。やはり選択肢から選ぶ、人間が作る試験という性格上、実戦力を計るのは難しいのかも知れません。
本当のコミュニケーションには“正解”は存在しません。通訳や翻訳もそうですが、正解が一つなんてありえないですよね。意図した目的が達成されたらそのコミュニケーションは正解だったということになります。通訳は特にそうですが、聞き手を意識してどういう言葉を使ってどういう風に情報を伝えればいいのかを考えていき、訳してみて相手の様子を見てわかってないようなら、また表現を変えていくといった臨機応変さも必要ですし、どういう組み立てで話を伝えるかといった創造性も必要ですが、TOEICではそういったことは全く必要ありません。
通訳を目指される方はTOEICスコアが900点前半を超えたら、それ以上の高得点を目指すよりも話したり書いたりといった自分から情報を発信するトレーニングに切り替えた方がいいように思いますし、近いうちに英検がTOEICに取って変わられたように、もっと新しいコミュニケーション力を測るテストが出てきてくれたらと思っています。
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