気持ちを伝える
皆さんこんにちは
今年は金融危機、景気低迷のため例年よりも仕事量が減っているといろいろなところで聞くとともに、例年よりも急な問い合わせが増えている感じがします。先週もスローかなと思っていたら、一気に仕事が入ってきて気がつけば馬車馬のように働いていました。
先週の馬車馬通訳はいろんな意味で体力的にも“濃い”1週間でしたが、特に印象的だったのは初めて組ませていただいた通訳者の方のパフォーマンスでした。今日はそのパフォーマンスについて書いてみたいと思います。
この通訳者さんとご一緒したのは半日案件でした。当初は日英パナガイド同時通訳のみと言われていましたが、英日だけ逐次で急きょ行うことになりました。ブリーフィングの段階で、前回同じ案件を行ったということでパートナーの方が逐次部分をやることになりました。
本番が始まり、某大手外資系企業の社長が同社に入社した経緯やその当時のエピソードを15分くらいお話しされました。ブリーフィングもあり、内容自体も難しいものではありませんでしたが、素晴らしいパフォーマンスでした。
会議やセッションの冒頭で、ちょっとユーモラスな逸話で場を和ませるような場での通訳は誰もが経験するものです。内容や英語自体は難しくないけど、何だかしらっ〜となったり、訳が間違っているわけではないけど、何となくうまく伝わらず、英語のわかる人と英語のわからない人の反応が違って微妙な雰囲気が漂い、冷や汗をかいた経験はないでしょうか?
今回の社長のスピーチはまさにそういう典型。英語を訳すという観点からするとさほど難しくないのですが、ともすると事実の羅列に終始する可能性があり、そうなると内容を理解してもらえることはできても、感情やニュアンスといったこの手のスピーチの重要な要素を伝えることはできません。テクニカルな内容であれば正確性が一番重要ですが、こういった事実を単に伝えるのではなく、エピソードを通訳する場合は、正確性に加え、その人の性格や雰囲気も考慮して言葉を選んだり、話し方を変えることができれば一層臨場感を出すことができます。
駆け出しのころ行ったセミナーの同通で“5歳の子供のような気持であらゆることに”Why?”という疑問を投げかけなければならない・・・”というくだりを何も考えずに「なぜ?」と訳したら、後で先輩通訳にさっきの”Why”だけど、五歳の子供は大人みたいに「なぜ?」とは言わないわよ。「なんで?」っていうのよって直されたことがあります。“なぜ”と訳して間違いではないですし、クレームになるようなことはないですが、うまい通訳者だとそういうところもきっちり押さえています。
先ほどの社長のエピソードを訳した方は後で聞くと20年以上のキャリアをお持ちのベテランで、正確さは言うに及ばず、まるで社長が入社した当時の様子が目に浮かぶような通訳でしたし、通訳者ご本人がその現場を見たのかな?と思うほど自然な言葉で訳されていて、黒子になるというのはこういうことなんだと思いました。
通訳という仕事はその人の人生や教養や経験が如実に出る仕事です。単なる言葉を知っているだけではなく、さまざまな人生経験や知識がないとここまでの通訳はできませんし、勉強だけでここまでの通訳ができるようになるわけではありません。久々に素晴らしい通訳を聞くことができ、道は長いなといい意味で刺激になる経験でした。
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