通訳学校卒業は必須???
最近、コラムを読んだ方や自分のサイトに来た方からの質問で増えているのが、“通訳になるには”というキャリアパスに関するものです。以前は通訳訓練をまだ始めていない方からの質問が多かったのですが、最近は通訳学校に既に通っている方または既に社内通訳をされている方からの質問が増えています。今回はよくある質問“通訳学校を卒業しないといけないのか?”という点について書いてみたいと思います。
まず答えとしては、基本的には必要はないと思います。昔は通訳学校を卒業して、そこのエージェントに登録し、仕事を紹介してもらうという形で通訳者になっていくのが一般的でしたが、今は(特に東京の場合は)在学中に社内通訳になる方が多く、また私のように海外の会議通訳コースを卒業して帰国し通訳になるケースも増えているので、大手の日本の通訳学校卒業は昔ほどのメリットはないと思います。また、エージェントも卒他でいろいろと経験を積んできた優秀な通訳にも優先的に仕事を回していっているようでので、以前よりも卒業生ではない通訳の登録を増やしているように思います。また学校を持たないエージェントの数が格段に増え、学校を持っていないエージェントだけでも十分通訳として生計を立てていけるという背景もあり、通訳学校の卒業の意味が薄れてきていると思います。そういう意味では、通訳になる門戸がかなり広くなっています。
ただその分、基礎が十分ではないまま社内通訳になってしまい、伸び悩んでいる方が増えているのも事実です。以前、短期講座をやった時に英語力が十分でないために逐次もまだまだ不安的な方が社内通訳をされていて、ウィスパリングまでやっているという方もいらっしゃいました。もちろん現場で力を付けていくことは重要ですし、現場に出てから飛躍的に伸びる方もいますが、やはり基本的なスキルは身に付けておかないと、通訳スキルが伸びないままになることもよくあります。“社内通訳の仕事に就けた”=“十分な通訳スキルがある”または“十分な語学力がある”わけではないと思います。
通訳がどういうものか分からず、ちょっと英語ができそうだからという理由で採用した会社の話もよく聞きます。通訳になることはあくまでも長い道のりの出発点に過ぎず、特に社内通訳になって数年くらいは学校に行くなり、勉強会をするなりしてスキルの安定と語学力アップを継続していく必要があると思います。社内通訳だと数ヶ月もやって内容がわかるようになれば、何となくこなせるようになります。その会社に永久就職するつもりがないのであれば、半年とか一年程度の短いスパンで次の会社や業界に移り、常に緊張感を持ってスキルを磨くようにしないと、長くいればいるほど、スキルアップや知識の蓄積も難しくなると思います。もちろん人それぞれキャリアパスの考え方は違いますから、一つの会社でプロとしてずっと勤めたいという方もいらっしゃいますし、同じ会社に10年以上も勤めていらっしゃる通訳者の方も知っています。それはそれで立派な選択肢だと思いますが、いろいろな分野の通訳にも対応できるようになりたいとか、いずれはフリーランスで通訳していきたいという人の場合は、注意が必要だと思います。
通訳学校卒業が必須でなくなった今だからこそ、自分でいかに実力を客観的に分析し、弱点をどのように克服していくかを考えていく自己責任が必要だと思います。特に通訳に要求されているレベルが日増しに上がっている状況を考えると、“通訳になれた!”と安住していて、気がつくとスキルや知識レベルがほとんど変わっていない!!と慌てることにもなりますので、“忙しい”を言い訳にせず、通訳者の唯一の資産である“スキル”と“知識”と“経験”の価値向上を目指したいものです。
来週はもう一つよく聞かれる“通訳にとっての専門知識”とはについて書いてみたいと思います。
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