INTERPRETATION

そのパッチワーク訳では通用しません!!

上谷覚志

やりなおし!英語道場

今週から数回にわたって、普段の授業の中で感じたことを書いてみたいと思います。

英日の授業では、サイトラと逐次を基本として授業を進めていくのですが、英語から日本語に訳すときに全ての単語の意味をパッチワークのように組み合わせて訳し、結局何を言っているのかわからない訳になっているケースが多く見られます。全ての単語の辞書的な意味を訳に組み込むことに全神経を使い、1つでも単語がわからないと“わかりません”と諦めてしまいます。

確かに使用される単語全てが何らかの役割を果たし、メッセージを構成していくわけですから、1つ1つの単語の意味を丁寧に捉えながらメッセージを確定させることは大切です。ただ“1つ1つの単語の意味を丁寧に捉える”=“全ての単語の辞書的な意味を訳に組み込む”ことではないと思います。

もし通訳が“全ての単語の辞書的な意味を訳に組み込む”というプロセスであるのなら、とっくの昔に通訳機械が開発されていたはずです。それが未だにできないのは通訳がそういうものではなく、“なぜこの単語がわざわざ使われたのか”とか“この文脈ではこういう意味になるだろう”とか“このトーンということは〜という意味になるはず”といった分析や解釈という自動化しづらい作業を瞬時に行っているからだと思います。

通訳者がinterpreter (解釈者)という言葉で表現されるのもそう考えれば納得できますよね。この分析や解釈というプロセスは何も通訳者固有の技術ではなく、英語であれ日本語であれ人がコミュニケーションするときに普通に行っていると思いますが、いざ通訳訓練となると単語の意味のパッチワーク訳をする人が必ずいます。そういう人は単語ばかりを見て、その単語が使われている文脈を無視し、結果ちぐはぐな訳になってしまうのです。

問題なのは訳した人は自分の訳が通じていないことに気付いていないことなのです。というのも自分は英語で話の内容を理解しているので、日本語の訳が変でも相手に伝わっていないかもしれないとは考えず、聞き手には英語の情報が全くないため、このちぐはぐな訳に100%依存していることを忘れているのです。

このことを認識してもらうため、授業ではペアワークをしてもらうことがあります。1人が英文を日本語に訳し、もう1人がその日本語訳を英語に訳し、元の英文と同じメッセージになるかどうかを確認してもらいます。そうすると“単語の辞書的な意味をパッチワークする”だけでは相手には伝わっていないことが初めて理解してもらえます。

例えるなら、このパッチワーク訳は全然煮込んでいないスープのようなもので、具材がそのまま残り、中まで火が通っていない具材ものもあるし、それぞれの具材が自己主張しすぎていて一体何のスープかわからないような状態です。それに対して上手な人の訳は元の具材がしっかりと煮込まれていて、全体として一体感のある味に仕上がっている、場合によっては元の具材が何か全くわからないくらいまで煮込まれているスープのようなものです。

とりあえず言われた具材は鍋に放り込みましたではダメなわけです。食べる人のことを考えて仕上げないと喜ばれないのと同様に、喜ばれる通訳を提供するためには、聞き手が理解できるところまで訳を練る必要があるのです。英語の単語は〜ですからと辞書的な意味をつないで、“出来上がり!!召し上がれ”ではダメなのです。

とはいえ毎回毎回しっかりと練った訳が出せるわけではありません。理解できない言葉や概念もあるとは思いますが、“しっかり煮込んだ”訳を目標として訳出することは大切だと思います。そのためにも通訳の練習をするときには周りで英語のできない人を思い浮かべて、その人でもわかってもらえるかどうかという観点で訳出すれば少しはこなれた訳になるのではないでしょうか。

講師として反省すべき点もあります。どうしても“〜という単語の意味が出ていませんね“というように訳の精度をチェックするので、生徒さんも”全ての単語の意味を入れた”ことをアピールしようとし、結果的に単語に縛られすぎている訳になるような気がします。単語の意味を細かく確認しすぎることなく、訳の精度をどうやってチェックすればいいのかをこれからも模索していく必要があると感じています。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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