INTERPRETATION

さかな、さかな、さかな、さかなを食べると…

上谷覚志

やりなおし!英語道場

こんにちは。お元気ですか? やっと夏が終わり、過ごしやすい季節になってきましたね。今年の異常な猛暑でスーツを着て通訳に出かけるというのは一種“修行”のようでした。うだるような暑さの中、やっと現場に到着して「あーこれで涼める・・・」とほっと一息、会議室に通されると例のクールビズのせいで、部屋の温度が28度に設定されていたりするとまた汗が・・・。クライアントはノータイでクールビズ対応できていても、通訳で初めて行った先でいきなりネクタイをはずすこともできず、始まるまでは暑さで汗を、会議が始まると冷や汗で、今年の夏はほんとに“汗”対策に悩まされた夏でした。

秋の気配が日々感じられるこの季節、食べ物が美味しくいただけるので“食人”の私としては非常に嬉しい季節なのですが、通訳としては必ずしも喜ばしい季節とは限りません。今日は食と通訳について書いてみたいと思います。

いわゆる帰国子女系通訳の方はあまり気にならないかもしれませんが、私のような国産通訳の場合、海外出張でクライアントと食事をするとき、メニューの説明に一苦労します。海外に何年か住んでいたことはありますので、全くわからないというわけではありませんが、まだ食べたことのない食材が結構あります。一部の野菜やソースやパスタの種類などは英語を聞いてもぴんとこないので、英語のまま言って“えっ!知らないんですか?”くらいの勢いで訳しきってしまいます(←本当は自分もよくわかってないのですが・・・)。英語のメニューを日本語に訳すとカタカナの連続で訳しても結局何もわからないことが多いです。

その場に辞書を持参していたら一応は調べてみますが、大体カタカナのままや日本語で見ても聞いたことのない生物名がすました顔して載っているだけで何の役にも立ちません。その素材そのものを食べたことがないので、説明しようにもできず、“淡水魚であっさりした味みたいです”とか“葱の一種で香辛料として使うみたいです”といった子供の使いみたいな説明で終わってしまいます。食べると謎の食材が案外普通の味や食感だったりすることが多いので、みんなでなんだろう???って騒いだ割には子供の使いの訳で十分だったりします。

通訳の駆け出しの頃は、会食通訳でこれまで行ったことのないような場所で、食べたことのないようなものを食べられるので喜んで行ったものでしたが、会食の通訳では全員が黙って食べない限り通訳はしゃべり続けるという自明の事実を体験するとだんだん早食いの技を身につけ、悲しいかな喋りながら味を堪能する前に食べることができるようになります。食べながらでも会議が本来の話に沿って進んでくれればいいのですが、たまに話が食材の話になるとドキッとします。さっきの海外のメニューとは逆で、これまでずっと食べてきたものだけど、英語で何と言うか考えたことがない食材って案外たくさんあります。その最たるものがお寿司屋さん。基本的に魚そのものにしっかりとした味があるわけではないので、これまで食べたことのない人にその微妙な味や食感をつたえるのは至難の業です。

さてここでいきなり問題です!次の魚は英語で何と言うでしょうか?

鯵(あじ)鰤(ぶり)はまち、鯛(たい)、ひらめ、カレイ

日本人であればこの魚を知らない人はいないでしょうし、ほとんどの方が口にしたことのある食材だと思います。では答えですが、それぞれ以下のようになります。

あじ=horse mackerel、ぶり=(adult) yellowtail、はまち=(young)yellowtail、たい=sea bream、ひらめ=Japanese flounder/turbot、カレイ=flatfish

ただネットでいろいろ調べていただければわかると思いますが、同じ魚なのに訳語がいろいろ出てくることが結構あります。それだけ訳語と日本語が一致して認知されていないのだと思います。

外国人にこういった英語の訳を出してもほとんどの場合は、さっきの英語のメニューがカタカナに置き換わっただけと同じ現象になってしまいます。日本人でも魚を見て、ブリなのかハマチなのか、平目なのかカレイなのか区別できる人は少ない(←ひょっとしたらできないのは私だけかもしれませんが・・・)わけで、それを外国人に訳してどれだけ意味があることなのか疑問です。結局“子供の使い”訳が1番いいのかもしれません。無駄に英語にするよりも日本語のままで、その代わり“今が旬の魚 seasonal fish”とか“脂の乗った魚fatty fish”とか“あっさりしたnon-fatty fish“くらいの方がわかってもらえるような気がします。

先日、アメリカ人のクライアントと二人でランチをする機会があり、お寿司屋さんに行きました。アメリカではお寿司はヘルシーということで人気があることはご存知の通りですが、週に何度かお寿司を食べるという人も増えているようです。彼もそういう健康志向のアメリカ人の一人で、いきなりyellowtail、sea breamとhorse mackerelにしようかなと言いはじめ、久しぶりの寿司英語・・・やばい・・・これを注文されても日本語が出てこないと自分の普段の不勉強を呪いながらも冷静に“Of course you can order yellowtail、sea bream and horse mackerel, but since you are in Japan and this sushi restaurant is really famous for tuna. They have a wide variety of tuna you wouldn’t be able to eat in the US so why don’t you try their tuna today?”としゃあしゃあと言い切り、大トロ、中トロ、中落ち等が入ったマグロ盛り合わせを注文してしまいました。心の中では「今度日本に来るまでにはどんな寿司ネタでも注文できるように勉強しておきます!」と謝りながら・・・。クライアントもこんないろいろなマグロをいっぺんに食べたことはなかったと喜んでいたので、まあ一安心。

通訳だからって何でも訳せるわけではありませんので、やはり臨機応変?に対応することも必要ですね。でもその前に魚の名前ちゃんと勉強します!

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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