メモ取り道場!
こんにちは。蒸し暑い日が続いていますが、お元気ですか?
さて今週はまた学習方法について書いていきたいと思います。通訳コースの初級に来られている方が最初に体験する問題は“メモが取れない”という問題です。実はこの問題はcomprehensionができていないという問題に置き換えることができます。ではメモ取りの練習はどうすればいいのでしょうか?
先日ご一緒したベテラン通訳者の方はこのcomprehension能力が非常に高く、メモをほとんど取らずに正確に訳されているのを見て、改めて“通訳ってcomprehensionがしっかりしていれば、メモをほとんど取らなくてもできるものなんだ”認識させられました。しかもこの通訳者の方は通訳学校に行ったことがないとおっしゃっていて、確かにメモを見せて頂くと、普通、通訳者が取っている方向と違った方向で紙を使っていらっしゃいましたが、メモの取り方そのものは同じでした。
これまでいろいろな方と組ませて頂き、メモを見せて頂いて言えるのが上手な方ほど、無駄なことを書かず、すっきりとしたメモで通訳をされているということです。ですから通訳学校で勉強されている方が“メモが書けないから通訳できない!”というのはどうも違うようです。恐らく生徒さんがメモに取っている文字数の方が通訳者のそれよりも多いと思います。生徒さんにメモなしで、短い固有名詞や数字の少ない内容を通訳してもらうとほとんどの方がメモを使った場合よりもしっかりと通訳できるという不思議な現象がよく起こります。
さて、私が通訳訓練を受けたオーストラリアの学校でメモ取りの授業が少しだけあり、その中で
(1)紙の縦方向に線を引き、紙を半分に分ける
(2)文章の終わりではなく情報のまとまりで横線を引き視覚的に情報の流れをつかむ
(3)聞いた単語を書かず、key messageを思い出すための最小限の情報を書く
(4)よく出てくる表現(〜が増減する、感謝いたします、先ほども申し上げましたが、横ばいです等の表現)は記号化しておく
(5)通訳をしながら出した情報を消していく
という説明を受けました。基本的に、通訳を始めてからこのルールを守っているので、上記のルールはある程度正しいのかなと思います。ただ先生がメモに関して一番最後に説明されたポイントで一番印象に残っているのが“Anything goes as long as it works for you”
という言葉です。(1)〜(5)のような基本ルールはあるものの、結局通訳ができればどんなメモでもいい、あくまでもメモは補助ツールであり、メモの優劣が通訳の質を決めるものではないという意味だと思います。
とは言っても、現場に出る機会が少ないもしくは全くない場合は、練習する必要がありますから、まず日本語→日本語のメモ取りの練習から始めて下さい。日本語ネイティブであれば聞き取りの問題がなく、メモ取りだけに集中できるからです。テレビの日本語ニュースを録画し、ニュースごとにメモを取り、聞き取った内容を再現できるかどうかやってみてください。普段何気なく聞いていたニュースが新鮮に聞こえると思います。それができるようになったら、今度は英語のニュースを録画し、同様に練習をしてみてください。ここでポイントは、後でサブタイトル又はスクリプトで確認できるニュースにすることと、もし可能であれば日本の内容または自分に馴染みのある内容から始めてみてください。最初は英語→英語でも、いきなり英語→日本語にできるのであればそれでも構いません。
なぜニュースがいいかというと、情報が明確な形で提示されるのと一つのニュースの時間は通常3分程度と短いので練習教材として使いやすいからです。同じ日の日本語と英語のニュースを使うと内容が重なっている場合が多いので、日本と英語の時事英語表現を強化できると言うメリットもあります。
ニュース英語である程度安定してメモ取りができるようになれば、実際のスピーチや討論番組といった一つの内容を掘り下げて取り上げているものに挑戦してみましょう。ニュースでしっかりとメモ取りができるようになったら、逆にスピーチや討論番組の方が同じトピックが続くという意味でやりやすいと感じるかもしれません。この場合でも、メモ取りの練習をするのであれば、日本語→日本語から始めて下さい。スピーチや討論番組で日本語→日本語の練習をする場合は、ニュースのように整然と情報が出てこない場合が多いので、単純に出てきた情報をそのまま出すのではなく、英語に直した場合どの順番で情報を出せばわかりやすいかを念頭において、情報の並べ替え(整理)も行うようにしてください。同様に英語→英語も行い、余裕ができれば逐次(日本語→英語)に切り替えてください。
メモ取りは自転車に乗るように、試行錯誤しながら体で覚えていくものなので、たくさん練習し、自分に合ったメモのスタイルを確立してください。
それではまた来週!
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