INTERPRETATION

ことばへの認識は社会的にできあがる

HAJI

英語のツボ

AdultとChildという言葉があります。

しばしば「大人の反対は子供」というように二項対立的に使われます。

また「あの人は良い年して、子供っぽいなぁ」ということを表現するためにchildishという表現もあります。

このように、私たちは当然の認識として「大人」「子ども」ということばを日々使っていますが、いったい大人と子どもとは何なのでしょうか。そして大人と子どもの区別はどこにあるのでしょう。

「大人」と「子ども」という概念は実は近代の産物とされています。

フィリップ・アリエス(Philippe Ariès)というフランスの歴史学者がいました。彼は西洋の絵画に着目をして近代以前と近代以後の比較をしたことで知られています。

彼が近代を境目に色々な絵画を観察していると、あることに気づきます。

それは、近代以前の絵画においては小さな子供でも、大人と一緒の立場で描かれているのに、近代以後の絵画においては大人と子供が隔離されて、子供は子供で特別な描写対象となっている、ということでした。(参照:Philippe Ariès “Centuries of Childhood”)

つまり、近代以前においては「大人」や「子供」という今日のように分け隔てた概念はなく、子供も大人と同等に扱われていたのです。しかし近代以降は、「子供」に対する認識が明らかに高まってきていることが、西洋絵画を通してわかります。

ではなぜ近代に入って「子供」という概念が生まれたのでしょうか。

それは「学校」という制度に起因します。学校は近代を近代たらしめるための、一つの重要な要素になります。

学校というinstitution(制度)が誕生してから、近代社会においては社会構成員の再生産が行われるようになります。

近代以前においては、いわゆる徒弟制度(apprenticeship)を通して、弟子が先生のやっていることを見よう見まねで覚える、というスタイルで知識を次の世代に伝承していきます。

しかし学校制度においては、大きな教室の中で、大量生産的に知識を体系的に生徒に伝えます。学校という箱に生徒を閉じ込め、彼らを「子供」と呼び、実際に社会で労働をしている「大人」と切り離すことによって、「子供」という概念が誕生したのです。

今日では大人と子供が当たり前のように別々に扱われていますが、このように近代以前においてはそのような分離は存在しなかったのです。

「大人」と「子供」という言葉を作り上げることによって、社会は長い時間をかけて恣意的に私たちの認識を規定していきます。

日常的に当たり前に使っている言葉を一つひとつ疑ってみると、意外と新しい側面が見えてくるかもしれません。

*本記事はあくまでも個人の意見であり、科学的な根拠をもとに事実を示しているわけではありません。

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記事を書いた人

HAJI

国際教養大学卒業後、COWプロジェクトメンバーとして入社。大学時代を社会学を専攻し、アメリカに留学。ジャズが大好きで、アメリカのジャズ拠点をフィールドワークしたことも。
現在は目標とする先輩の通訳者のようになれることを目指して日々奮闘中。

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