ことばを学ぶと世界の認識が変わる
「外国語を学ぶと世界の視点が広がるよ」とはよく言うものですが、果たして本当にそうなのでしょうか。
大学で言語学の授業を受けていた時のことです。言語学の巨匠であるフェルディナン=ド=ソシュールをテーマにして、教授が次のような言葉を引用していました。
“現実の事象は連続体であり、言語がそれを不連続体として恋意的に「切り取る」作業を担っている“
難しい表現をしていますが、例えば以下のような具体例を考えてみましょう。
カナダ北部に住む先住民の一民族に「イヌイット」と呼ばれる民族がいます。カナダの北部ですから北海道とは比べ物にならないくらい、果てしなく極寒の地であることがわかります。
常に雪に囲まれるような環境の中で一番大切なことは、何よりも身の安全を守ること。
雪で隠れてしまった落とし穴に気づくとができなければ、大怪我を負ってしまう可能性があります。
こういった特殊な状況のなかで生き残るためには、雪に対して常人よりもはるかに見分けることができる能力を持つことが必要です。
実際イヌイットの人々は、雪に対して非常に敏感であり、雪は雪でもその色合いによって、微妙に言語を使い分けているそうです。
普通の人にとっては(少なくとも私たち日本人は)、雪=白という概念しかなく、白以上でも白以下でもありません。
しかしイヌイットの人々は、雪における白という色をさらに細かい言語のフレームワークの中で扱っているようです。
先ほどのソシュールの話に戻りますが、「現実の事象は連続体」を雪に例えると、普通の人にとって雪というのは「白色の連続したもの」としか認識することができません。
しかし、イヌイットの人々はその白色という連続体をさらに「切り取り」、連続したものではなく、「不連続なもの」として認識をしているのです。
これを一つの公理としてまとめると「(外国語・母国語問わず)ことばを色々と知っている方が、現実世界をもっと細かく切り取って観察することができる」ということになります。
例えば子供と大人では当然語彙数が違うわけですから、世界に対する認識の仕方は異なることになります。子供の頃の記憶というのは時が経つほどぼやけてきますが、これは、結局世界に対する認識が大人になるにつれて明確に、細かくなっていくから、相対的に子供の頃の世界観というのは非常にぼやけたものになるのではないでしょうか。
また、同じ年齢であったとしても、あなたの隣に座っているひとは少なからずあなたとは持っている語彙数が違うわけで、世界に対する認識は違うかもしれません。「ねえ、あの虹とてもたくさん色が出ていて綺麗だよね」「え、そうかな、僕には2色しか見えないんだけど」という会話もありうるかもしれません。
実際、南アジアのバイガ族という民族は虹を「明るい色」と「暗い色」の大まかに2種類にしか分けていないという話も聞きます。
このような「言語は認識を規定する」という考え方を「サピア=ウォーフの仮説」とも呼ぶそうですが、言語学の世界では論争のもとになっています。
この仮説が正しいか間違っているかは知り得ぬところですが、英語に限らず、他の国の言葉を学んだり、または母国語内においても語彙数・知識を増やしていくことは、今まで知らなかった世界に関するさらにミクロな事柄を知ることができる契機となるかもしれません。
*本記事はあくまでも個人の意見であり、科学的な根拠をもとに事実を示しているわけではありません。
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