Politically “Correctless”なことば
皆さん、初めまして。このコーナーでは日々通訳の勉強をする中で疑問に感じたこと、不思議に思ったことを、一つひとつ深く掘り下げて紹介をさせていただきます。
Political Correctnessということばをご存知でしょうか。直訳すると「政治的な正しさ」。ジェンダーや人種などについて中立的であることが求められる今日、ビジネスシーンでも気をつけていかなければいけなくなっています。
典型的な例として、Businessmanという表現があります。かつてはこの表現が普通に使われていましたが、「男性・女性関係なくmanが使われるのは性差別だ」ということで、現在はbusiness personと使われるのが一般的です。
また、heやsheという表現についても、「人を指示することばにhe/sheの2種類しか使わないのは、性別が男性と女性の2種類しか存在しないという前提のもとに成り立っているので、他のジェンダーを排除する構造になっている」として、中立的なtheyということばが(対象が1人であったとしても)使われる場合があります。
このように様々なことばが、political correctnessの名の下に変革を迫られていますが、実は身近な単語にも性別的に偏った意味をもつものがあります。
それがmarryです。
「結婚をする」という意味の単語ですが、じつは昔は「女性が結婚するとき」に使われていたもので、男性に対しては使われていませんでした。
一方で、男性の結婚の場合にはwedを使っていたようです。現在ではweddingという形で残っていますね。
marryが女性限定で使われていた痕跡は、今日でもその文法的な使われ方に残っています。
marryは他動詞(目的語を必要とする動詞)で、「marry 人」の形で「人と結婚する」という使い方をします。
そして注目すべきが受動態で使用されるとき。受動態で書くときにはI was married to him.のように、前置詞toが伴います。
このとき多くの方が勘違いしがちなのですが、日本語の「〜と(一緒に)結婚する」という表現につられて、 I was married with him.になってしまわないように気をつけましょう。
ではなぜwithではなくtoが用いられているのか、というところに、marryが女性限定で使われていた痕跡があります。
基本的に前置詞のtoというのは「方向性」を表します。例えば、I go to school.と言えば「学校(の方向に向かって)へ行く」という意味です。
つまりI was married to him.の場合も、「私→彼」という方向性が暗示されています。
「結婚する」という日本語で考えていると理解できませんが、「嫁入りする」ということばで考えてみると納得できます。
直訳すると「私は(〜の方向に向かって)嫁入りする」ことになります。
そうすると常に、A is married to Bという表現においては、嫁入りするAが女性でBが男性でなければ不自然です。
このようにmarryはもともと女性限定で使われていたことがわかります。
もちろん現在はmarryは男性・女性関係なく使われているので、political correctnessに反する、などということはありませんが、身近な単語も知らないうちにこのような変遷をたどっていたとわかると、ことばは面白いなあとしみじみ感心します。
*本記事はあくまでも個人の意見であり、科学的な根拠をもとに事実を示しているわけではありません。
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