美しいか、役に立つか
先日出かけた埼玉県立近代美術館には小ぢんまりとしたミュージアムショップがあります。都内の同様の店舗に比べると品数は限られているのですが、行くたびに新しい書籍の品揃いを目にすることができ、いつも魅了されています。
今回購入したのは津田晴美著「気持ちよく暮らす100の方法」(ちくま文庫、2004年)です。津田氏は建築やファッション関連の仕事に従事したのち、現在はインテリア・スタイリストとして活躍中です。
本書には暮らし方に関するアイデアがいろいろと出ていました。著者自身が使ってみて良かったアイテムの紹介から、つい忘れてしまう「ドアノブ磨き」などに至るまで、生活についてのトピックが満載です。
中でも私が共感したのは、津田氏の価値観である「美しいか、役に立つか」という考え方です。たとえば何か一つ買いそろえるにしても、それが自分にとってデザイン的に美しいか、自分の生活で役立つのか。そうしたことをじっくりと考えてから買うことを勧めています。
このフレーズはその後の私に大きな影響を与えてくれました。私たちは街を歩けばたくさんの商品に遭遇します。とりわけ日本の場合、大人になっても「かわいいもの」が愛される傾向にありますので、キャラクターグッズを年齢問わず身につけることにさほど後ろめたさはありません。今でこそ海外でもkawaiiという単語がお目見えするようになりましたが、かつて暮らしていたイギリスで、社会人女性がキャラクターアイテムを持っている光景を目にしたことはなかったのです。
「美しいか、役に立つか」。私はこの価値観を自分の生活の2分野で当てはめることにしました。
まずは「日常アイテム」。たとえば販促グッズを無料でもらった場合、自問自答してみるのです。「この企業ロゴ入りペンは今の私に本当に必要か?私にとってデザイン的に美しく、かつ役に立つのか?」という具合です。もし答えがイエスであれば使いますし、ノーであれば地元チャリティー団体に寄付する段ボール箱に保管します。街頭で配られた化粧品サンプルも同様で、ポイントは「答えがイエスであるならば、なるべく早く使い切る」という点です。つまり、「タダで突然我が家に『侵入』してきたものは、できる限り迅速に消費する」と考えるのです。
2点目は自分自身の仕事に関してです。通訳という仕事は言葉を操るわけですので、訳語のニュアンスや適訳など、聞き手の主観ももちろんあるでしょう。けれども自分の作業においては「今の通訳で美しいか(=聞きやすいか)、自分は聴衆の役に立っているか」を考えるようにしています。このコラムのような原稿を書くときも同様で、しっかりとした美しい文章か、読者にとって少しでも参考になり、役立つことが盛り込まれているかなどを自問自答するようにしています。
「美しいか、役に立つか」という考えに終着点はありません。だからこそ、これからも日々研鑽を積み続けたいと考えています。
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