INTERPRETATION

自分の仕事に愛情があるか

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 ここ数回、引っ越しに関する話題が続いています。実は今回の引っ越しで多くの出会いがありました。たとえば引っ越し会社やガス・電話などの工事担当者です。通訳業同様、おそらく一期一会の世界ですので将来またお会いすることはおそらくないとは思うのですが、そうした作業担当者の仕事に対する姿勢にたくさんのことを感じました。

 まず見積もりで来宅した引っ越し会社の営業マン。当初は複数の引っ越し会社から見積もりを取って比較検討をしてから決めようと思っていました。しかし仕事が立て込んでいたこともあり、「電話の受付時間が一番朝早くからやっていた引っ越し会社」にたまたま電話をしたところ、電話応対がよく、それでほぼ決めたのでした。

 何らかのサービスを利用するに当たり、私が重視するのは電話での応対です。忙しそうな雰囲気を出してしまっていないか、お客様の立場に立って電話口の向こうで笑顔で話しているか。そんな基準で選ぶことが多いのです。今回の引っ越し会社はそうした基準にピッタリでした。

 数日後来宅した見積もり担当者はテキパキと明るく応対してくれる方でした。幸いなことに、わが家の壊れたエアコンも取り外し・引き取りに応じてくれるとのこと。忙しいさなかにリサイクルごみで出すのも大変だと感じていただけに、これは助かりました。その話の流れで何とその引っ越し会社はエアコンを販売していることが判明。カタログを見せていただくと、わが家の条件にぴったりのエアコンが掲載されていたのです。迷わず購入を決めました。お陰で引っ越し前後のバタバタした時期に家電店へ行く手間も省け、本当にありがたく思いました。

 引っ越し当日に作業にあたったのは3人のスタッフ。時間が限られているハードな引っ越し業務なので、もっと体育会系のノリかと思っていたのですが、実にきめ細やかで、スタッフ同士がにこやかに丁寧にやりとりしていたのが印象的でした。お互い丁寧語で話をしており、先輩スタッフが後輩スタッフの面倒をよく見て指導をしながら作業を進めていました。こういうシーンは利用者として見ていても気持ちの良いものです。

 引っ越し前にはガスサービスの停止作業のため、ガス会社の職員が来宅しました。このスタッフもニコニコと迅速に作業にあたってくれました。普段何気なく使っているガスや元栓のこと、あるいは煙探知機についてなど、使い方のちょっとしたコツなども教えてくださり、「ガスのことが本当に好きなのだな」と見ていて思いました。

 こうして改めて振り返ってみると、「自分の仕事に愛情がある」「明るくテキパキしている」「礼儀正しい」というのが私にとっての評価ポイントのようです。おそらくサービス利用者であれば誰もがこうした要素を大切に思うのではないでしょうか。私自身、通訳業や講師という立場において、この3点を大切にしていこうと改めて自分に言い聞かせています。

 

(2010年10月4日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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