INTERPRETATION

進化し続ける読書法(その2)

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 先週のこのコラムでは、図書館の本ではなく自分で購入することのメリットをお伝えしました。そこで今回は、自腹を切って入手した本をどのように読み進めるかについてお話していきましょう。

(1)同じテーマのものを体系的に購入する

 これは通訳者になってから私が意識するようになったのですが、たとえば特定の通訳業務に備える場合、体系的に本を読み進めて知識をインプットする必要があります。その際、まずは難易度の低い書籍から読み始めて、少しずつレベルを上げ、最終的に専門書レベルまで読みこなすということになります。

 仮に「森林伐採」に関する通訳案件を頂いたとしましょう。まず私が自問自答するのは「森林伐採について小学校1年生にも分かるような説明ができるか?」という点です。もしこの答えが「ノー」であれば、そのテーマ自体を自分が知らないという証拠。その際には躊躇せず、まずは子ども向け図鑑などを購入します。子ども向けの書籍は写真や図柄も豊富、よみがなも振ってあり、文章も平易ですので理解しやすくなっています。よって図鑑をまずは選び、同時に「岩波ジュニア新書」のような中高生向けの書籍も合わせて購入します。

 こうしたわかりやすい文献にまずは目を通し、概略をつかむ作業を終えたら、次は大人向けの新書や単行本、専門雑誌や大学出版会などが出している書籍へとレベルアップしていくのです。こうして体系的に一つのテーマを読み進めることによって、理解度が深まっていきます。

 これは通訳学校の予習でも使える方法ですので、ぜひ試してみてください。

(2)今の時代の新書は雑誌に同じ

 雑誌ならパラパラとめくったり、興味のある記事から読んだりすることに抵抗がないのに、なぜか「書籍」だと「最初から読まなければ」と思いがちです。けれども最近は新書の出版点数もおびただしく、タイムリーなテーマの書籍が続々とお目見えしています。じっくりと読んでいては時間がいくらあっても足りません。

 よってお勧めしたいのが「雑誌感覚で新書を読む」ということ。書店で面白そうなタイトルを見つけたら迷わず購入し、興味のあるページだけじっくり読むと割り切って考えるのも一つの読み方です。

 新書の価格は、ファッション雑誌と変わりありません。その一方で、一つのテーマが一般読者にも分かるような文体で書かれています。もともと新書は「大学1年生でも分かるように」というコンセプトで誕生したもの。もっともっと活用していきましょう。

(3)まえがき→あとがき→目次をチェック→拾い読み

 小説であれば最初から順に読み進める必要がありますが、「知識を仕入れる」という目標で本を読む場合、読む順番にこだわることはありません。私の場合、書店で面白そうなタイトルだなと思ったらまずは手に取ってみます。そしてまえがきにざっと目を通し、その著者の文体や書かれている内容に興味・共感を抱くことができれば購入します。

 自宅、あるいは帰宅途上で読む際にはあらためてまえがきをじっくり読み、そのあとすぐにあとがきを読んでしまいます。新書や専門書の場合、たいていこの2か所で著者は言いたいことを述べているからです。

次に目を通すのは目次です。かつて私は目次の数ページはあまり意識していませんでした。しかし、目次にじっくりと目を通すようにしてみると、目次を見るだけでその一冊の内容はほぼ把握できることに気付いたのです。以来、目次は必ずチェックするようにして、興味のある見出しに印をつけるようにしています。こうしておくことで、「まずは目次に印の付いた箇所から読み始める」ことができるようになりました。要するに、「興味のあるページから読み、それほど関心がない個所は斜め読みでOK」ということになります。

(4)新書の読了目安は一日

 これほど大量の文献が出版されていることを考えると、時間はいくらあっても足りません。かつて私は本を一字一句読み進めるタイプでしたが、通訳者になってからは「たくさんの情報をまんべんなく取り入れる」という必要性が出てきました。このため、一冊に時間をかけすぎるわけにはいかなくなってしまったのです。

 本は読む習慣がつけばつくほど、素早く読めるようになります。現在私が目安にしているのは「新書であれば1日で」です。実は早く読了することや、全部を読まないまでも斜め読みぐらいはしてしまうことというのは、「そのテーマへの関心が高いうちに読んでしまうこと」という意味でもあります。興が冷めないうちに読了してしまえば、「積ん読」も避けられます。

(5)アウトプットを意識

 何のための読書か。それは人それぞれでしょう。通訳者の場合、業務日当日まで専門家に準ずる知識を仕入れ、当日にしっかりと訳出する、つまりアウトプットするという目的があります。私のように通訳学校で教鞭をとる立場の場合、授業教材に関する内容をより分かりやすく受講生に説明する必要もあります。

 ただ漫然と読んでいてもダレてしまいがちですので、アウトプットを意識しながら読み進めてみてください。たとえばブログに読後感を綴ったり、自分で読書ノートをつけたりするのでも良いでしょう。あるいは新聞や出版案内誌などの投稿欄に投書するのも格好の文章トレーニングです。

 いかがでしたか?次回も引き続き、読書法をテーマにお話していきます。

 

(2010年9月6日)

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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